CIA本部に鎮座する「解けない謎」
米東岸バージニア州ラングレーに位置する、CIA本部。その中庭には、世界中の暗号解読者たちを悩ませ続ける彫刻作品が設置されている。1990年11月3日に公開された『クリプトス(Kryptos)』だ。
作品は高さ約3.6メートル、幅約6メートル。まるで風にはためく旗のような、S字にしなる巨大な銅製の曲面に、計約1800文字のアルファベットがくりぬかれている。
銅板部分に刻まれた文字は、4つの暗号セクション「K1」から「K4」と、解読を補助する表から成る。暗号のうちK3までの3面は解読済みだが、最後の「K4」に当たる97文字が未解読のままだ。CIA職員を含む世界中の暗号解読者たちが挑戦を続けた過去35年間、一切のアプローチを拒み続けてきた。
鉄壁の暗号の解答が競売へ…落札予想価格は最大7400万円
現時点で残されている最後の暗号である「K4」の解読結果が、今年中についに明かされることになりそうだ。
今年8月、製作者であるワシントンDC出身の彫刻家ジム・サンボーン氏は、オークションへの出品を発表。ワシントン・ポスト紙によると、今年11月20日にボストンで行われるRRオークションで、未解読のK4セクションの解答を記した文書を競売にかけるという。
予想落札価格は、30万ドルから50万ドル(約4400万円から約7400万円)。同社の副社長ボビー・リビングストン氏は「さらに高値がつく可能性もある」と述べている。
英フィナンシャル・タイムズ紙は、解答は装甲車で輸送されると報じた。サンボーン氏の健康状態が完全とは言えず、世界的な興味を集めた謎にどのような幕引きを行うか、氏は近年悩み続けていた。公開された手記を通じ「私はもはやK4コードの97文字を維持するための物理的、精神的、財政的リソースを持っていないのです」と心境を吐露している。
『ダ・ヴィンチ・コード』がブームに火を付けた
クリプトスが世界的な注目を集めたきっかけの一つは、ダン・ブラウン氏によるベストセラー小説『ダ・ヴィンチ・コード』と『ロスト・シンボル』であった。
映画化もされたことで話題は沸騰し、ノーザン・バージニア・マガジン誌によれば、一時期は全Google検索の中でもトップの検索ワードとなった。サンボーン氏の受信箱は、メールで溢れかえったという。
現在、この謎に挑む人々は世界中に広がっている。あるCIA職員は昼休み計400時間投じ、謎の一部を解き明かした。それでも全体像の把握には至っていない。
設置当時のCIA長官であるウィリアム・ウェブスター氏だけは、製作者から解答を渡されていたという。しかし、ウェブスター氏が今年8月、101歳で永眠した今、答えを握るのはほぼ作者のみとなった。
