「彼らと我々では時計が違う。たとえばフェイスブックには仕様書がほとんどない。何かが起きたら、全員で一気に直す。我々は通信会社なので、それはできない。特質の違いを理解する必要がある。これまで通信会社は様々なサービスを独自に提供しようとしたが、すべてダメだった。iモードやEZWebは通信会社がプラットフォームをつくり、そのうえでパートナー会社が盛り上げた。造成しないと家が建たないのと同じです。我々の役割はフィールドをつくること」
「端末と回線はどこも同じになる」
こうしたプラットフォームづくりで重要な位置づけを担うのが「au ID」と呼ばれる仕組みだ。これはKDDIのユーザー1人ひとりに割り振られるもので、この仕組みにより、ユーザーはひとつのIDで、スマホやタブレット、テレビといった異なる端末からも、同じコンテンツにアクセスできるようになる。たとえば外出先で映画をスマホで見ていた場合、家に帰ってからその続きを自宅のテレビやタブレットで見ることができる。
「au ID」は、単にコンテンツのIDとして機能するだけでなく、様々なネット通販などの決済手段としても有効に活用されている。クレジットカード番号を入力しなくても、IDとパスワードだけで決済が可能で、ユーザーは電話代と一緒に支払うことができる。この場合、KDDIは決済時に手数料を得る。
こうした動きは、携帯電話業界のなかでKDDIを特徴づけるものだ。
最大手のドコモはMNPでの流出が続いているものの、依然として圧倒的なシェアを誇る。今後の収益増についてドコモの加藤薫社長は「アマゾンを目指す」として、物販サービスなどの独自展開に力を入れている。一方、ソフトバンクは10年12月にウィルコム、13年1月にイー・アクセスを傘下に収めてシェアを拡大。グループ全体の契約数ではKDDIを上回るようになった。さらに米国でのキャリア買収を進めるなど、規模の拡大に邁進している。
両社に挟まれるKDDIは、「解約率の改善」を第一の経営目標とすることで「2番手」の地位を固めつつも、通信事業をベースとした新しい形のプラットフォームづくりを目指す。独自に通信販売を手がけるのではなく、パートナーとの提携のなかで、ユーザーの満足度を高めていく。その手立ての1つが「au ID」なのだ。