携帯キャリアは「わが世の春」を謳歌している。最大の要因はスマートフォンの普及だが、それはいつまでも続かない。事業の主導権は徐々にアップルやグーグルに移りつつある。物流に手を広げるドコモ、規模拡大に邁進するソフトバンク。両社に挟まれる「2番手」は、通信サービスの洗練で活路を拓く――。
なぜHTCの端末が独占供給されるのか
MNPで他社からの流入が好調な理由はもうひとつある。KDDIのスマホのラインナップには、世間で人気のブランドがすべて揃っているのだ。
iPhoneを筆頭に、ギャラクシー(サムスン)、エクスペリア(ソニー)、オプティマス(LG)、アクオスフォン(シャープ)、アローズ(富士通)……。外資から国内メーカーまで、とにかく幅広く取り揃えている。ドコモにはiPhoneがなく、ソフトバンクにはギャラクシーやエクスペリアがない。KDDIなら使い慣れた機種や憧れの機種を選べる。毎月の通信料金を安くしようとMNPを考えたときに、KDDIは「受け皿」としての環境が整っているといえる。
その一方で、デザイン性の高さが人気の「INFOBAR」や日本初のフルHD画面を搭載した「HTC J butterfly」といった独自機種を投入することで、他社との差別化にも成功している。
この2機種はともに台湾のメーカーであるHTCが手がけたものだ。HTCは売上高が約9000億円、従業員数が約1万6000人というグローバルメーカーだ。だが長年、日本市場では苦戦を強いられていた。このためKDDIは自社独占とすることで、日本市場にあった作り込みを提案。さらに人気ブランドの「INFOBAR」の開発も日本メーカーから切り替えた。この結果、HTCが開発した2機種は見事にヒットした。
HTCのピーター・チョウCEOは、「田中孝司社長には感銘を受けている。彼が台湾にきて、いろいろと意見交換をして、開発体制を変えてくれた。田中社長のサポートが我々に変化をもたらせてくれた」と語る。差別化を図るために、グローバルメーカーとの提携を強く意識する姿がうかがえる。