そんな「オタク気質」は端末ラインナップにも表れている。かつてソフトバンクがiPhoneを売りまくっていた10年秋には、KDDIは「Android au」というキャンペーンを行い、アンドロイドに注力。翌年の11年夏には、国内初となる「ウィンドウズフォン」を発売するが、後継機種を発売することなく、11年秋にはiPhoneを売り始めている。
「節操ないよね」と、田中社長が振り返るように、流行りそうなものを次々と投入するという印象が強い。
田中社長が就任するまで、KDDIはスマホへの対応が大幅に遅れていた。前社長の小野寺正会長は、DDI、IDO、KDDの3社合併をまとめたほか、ドコモとは異なる通信方式を武器に、いち早く「パケット代定額制」を開始。さらに「着うた」をヒットさせるなど、業容を大きく伸ばした。しかし「ケータイ」での成功に縛られたからか、スマホへの対応が遅れ、業績は伸び悩んだ。田中社長はこう振り返る。
「世の中がこうもスマホに変わるとは予想していなかった。最初は『あんなもの、売れるわけがない』と言っていた。でも、違った。売れるわけがないと思っていたのは我々であって、お客さんではなかった。調子がいいときには、ちゃんと外を見ていないと、鼻が伸びてしまう。だから相当、自省しました」
その結果が「節操がない」というほどの変わり身の早さだ。「驚きを、常識に。」というキャッチコピーのとおり、予想のできない動きをしているのがいまのKDDIだ。
田中社長は、いま「第3のOS」とも言われている「Firefox OS」を搭載したスマホの開発も指示している。成功は未知数だが、「なんか面白そうだから」(田中社長)という理由で新分野に取り組む。それは新しいものに飛びつく「オタクらしさ」を想起させる。
現在、KDDIのスマホユーザーの比率は、全契約者数の3割程度。田中社長は「将来的には8割程度まで伸びる」とみている。業界はスマホブームに沸いているが、田中社長は「イノベーションを起こさなければ、お客さんは違うところにいってしまう」と言う。
「市場としてはこれからピークを迎えることになります。でもそこで留まってはダメなんです。世の中、そんなに甘くない。以前からスマホを使っている人は、もうワクワク感が乏しいはずです。スマホで画面を拡大・縮小させたとき、誰もが驚いた。人間はモノを見せられて、はじめて『これが欲しかったんだ』と思う。そういった『次の私の欲しいもの』を探さないといけない。驚きを通り越して、感動を与えられるもの。それがうちから出る、という姿を目指したい」