「環境」が変われば戻ることはない
佐藤尚之さんは、常にネットの最先端を走ってきた人だ。「さとなお」のペンネームで、95年より個人サイト「www.さとなお.com」を運営。食や旅関係のブログ記事は好評を集め、ペンネームだけで9冊を上梓している。08年からはツイッターを開始。鳩山由紀夫元首相がツイッターを始めたのも、著名ブロガーとして食事会に招かれた佐藤さんが、利用を勧めたことがきっかけだ。
とりわけ東日本大震災を巡っては、佐藤さんの活動が大きな成果を挙げた。所属先の電通とは関係なく、ネットを介してできた政府とのパイプを活かして、ボランティアに奔走。11年3月22日には復興支援情報の共有サイト「助けあいジャパン」を立ち上げた。政府の「震災ボランティア連携室」と協力しながら、ボランティアの受け入れ状況などを集約するもので、「民に官が情報を提供する」という民間のプロジェクトとして続けられている。運営スタッフもソーシャルメディアで募った人たちだ。
11年3月末に電通を退職したが、独立は震災以前から決めていたことだった。きっかけはソーシャルメディアの登場だった。
「これまで会社員は、組織のために機能する歯車の役割しか担えなかった。でも、ソーシャルメディアの時代になると『電通の佐藤』では、もう古い。『佐藤がいる電通』として動くべき時代になっています」
佐藤さんは、著書『明日のコミュニケーション』の中で「ソーシャルメディアの本当の楽しさ・便利さは実名登録してから始まる」と書いている。「個の時代」を迎えるうえで、発信のできない人は「割を食うようになる」と話す。
「その昔、馬車が発明されたときにも、『馬車は速すぎて、人間の生理に合わない』という意見があったといいます。自動車や電話と同じで、環境が変わってしまえば、もう戻れない。ソーシャルメディアを『苦手だから使わない』というのは個人の自由。でも、それは電話番号を持たずに生きていくようなものでしょう」