外資系IT企業に勤める楠正憲さんは、07年4月からツイッターを利用する古参ユーザーだ。12年2月時点のフォロワーは約1万8000人。だがネットでのコミュニケーションはFBが主軸になりつつあるという。
「ツイッターはテレビに近い。リアルタイムに流行を追いかけるには便利ですが、議論を深めていくような使い方には向いていないと思います」
ツイッター上のやり取りは原則公開だ。またやり取りを外部で記録する「まとめサービス」の登場で、発言がいつまでも残るようになった。このため、思わぬ形で激しいバッシングを招くことがある。
「日本社会は個人主義になっていません。ビジネスパーソンが問題発言をすると、所属する組織にプレッシャーをかける。ツイッターは以前より窮屈な感じがします。私の周囲ではFBのほうが議論が活発です」
一部ではメールを代替しつつもある。セキュリティの厳しい大企業や官公庁では自宅や外出先ではメールが見られない。しかも大量の同報メールに埋もれる。FBは個人間のやり取りだから、埋もれにくい。
「ビジネス上でのコミュニケーションの軸が、どんどんソーシャルメディアに置き換わっていますね」
実名登録も前提になりつつある。楠さんは一時期、ブログを仮名で書いていたが、08年に「青少年ネット規制法」の制定が議論された際、自民党による法案の問題点を指摘するため、実名とした。
「身元を明らかにしなければフェアではないと感じたからです。ブログは所管官庁でも広く読まれ、議論の土台になったように思います。そのためには、個人として認識され、信用を得る必要がありました」
実際、楠さんは法案の審議において、政府参考人として参議院で答弁する機会を得た。現在は内閣官房での職務も併任している。
リアルとバーチャルで人格を分けるという方法もあるが、楠さんは「両方を紐付け、1つの自分として利用したほうがいいと思った」という。
「ツイッターやブログでは『ファン』をつくることはできますが、それだけで仕事に役立つ人脈をつくるのは難しい。人脈につなげるには、1対1の関係性をつくる必要があります。一方で、発信していけば、呼び水のように情報が集まってくる。専門家からコメントが付き、そこからリアルの人脈にもつながる。紐付けることで、オンラインの活動が、リアルの自分にとっての資産になります」