「中国との貿易」はむしろ雇用を生んでいる
バリューチェーンの川上に向かう方法はいろいろある。ヨーロッパ企業50万社を調べた今世紀初頭の研究では、中国との競争に直面した企業は研究開発投資を増やすことで対応したことがわかった。そして特許申請件数もこうした企業のほうが多かった。その結果の1つとして、ヨーロッパの雇用はもっと革新的な企業にシフトした。研究者たちは、中国との競争は2000年から2007年のヨーロッパ経済における技術的更新の14%を後押ししたという。
さらに、国内企業は安い輸入中間財を使うことで生産を拡大できる。輸入が地元の職を破壊するという結論を出す研究は、通常は直接の競合しか見ない。
もしスミスさん一家が中国企業の冷蔵庫を買えば、アメリカ企業の冷蔵庫は買わない。だがそれは貿易の一側面にすぎず、最大の側面ですらない。国境を越えるほとんどのものは投入財、原材料、部品で、企業が自分の製品を作るために必要とするものだ。ときには中国から冷蔵庫を買うこともあるが、アメリカの冷蔵庫メーカーがドア、ケーブル、ランプを中国から買って、優れた冷蔵庫を安く作るほうが多いのだ。
最近の研究では、2000年から2007年のバリューチェーン全体を見ると、中国との貿易の影響はむしろアメリカの職を増やしている。平均的なアメリカの地域は、中国との貿易がまったくない仮想的な地域と比べると、雇用を毎年1.3%増やした。結果としてアメリカ労働者の75%は実質賃金が上がった。
iPhone1台の中国の取り分はたった「8ドル50セント」
だがそもそも仕事を1つたりとも犠牲にしなくてもよいのでは?
iPhoneを見てほしい。ドナルド・トランプは、アップルがなぜ地球の裏側でスマホを組み立てるのか理解できなかった。「アップルの最大の恩恵を受けているのは中国だ──我々ではない」と彼は文句をたれ、アップルに「そのくそコンピュータやモノすべてを他国ではなくこの国で作れ」と求めた。
しかし、本当に中国が最大の勝ち組なのだろうか?
一部の研究者は647ドルで売られるiPhone7を分解した。製造原価は237ドルだが(これはデータ上では237ドルの中国からの輸入のように見える)、それを構成する部品のほとんどは、アメリカ、日本、韓国、台湾製のマイクロプロセッサ、メモリチップ、ディスプレイなどだった。
とはいえ一部はもちろん、中国の労働や部品ではある。いくらくらい?
8ドル50セント弱──アメリカの最低賃金と大差ない金額でしかない。つまり、「最大の勝者」であるはずの中国は、みんながiPhoneに支払うものの、たった1.3%を手に入れるだけなのだ。
残りの98.7%は、他の部品メーカーや、アップルとアメリカの労働者、研究者、デザイナー、プログラマ、販売員、マーケティング担当、倉庫労働者、税務当局に行く。
そして、工場を自国に取り戻すほうがいいかという問いへの答がこれだ。こうした決まり切った組み立て仕事は、アメリカ人でやりたがる人はほとんどいない──そしてアメリカなみの賃金でアメリカ人にそれをやらせたら、iPhoneは高くなりすぎて、同社は(たとえば中国のスマホメーカーと)競争できなくなる。
もし組み立てが効率的に安くできるところに外注すれば、アメリカ人は高技能職を維持できる──デザイン、部品、ソフト、広告キャンペーンを実施できて、大儲けできるのだ。