「安価な労働力のある中国に仕事を奪われている」という言説は本当なのか。歴史学者のヨハン・ノルベリさんは「iPhoneを完全に自国製造に切り替えたら、アップルは太刀打ちできなくなる。中国は単純な仕事を奪う代わりに、もっとよい仕事を提供している」という――。
※本稿は、ヨハン・ノルベリ『資本主義が人類最高の発明である グローバル化と自由市場が私たちを救う理由』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです。
中国は先進国の仕事を奪っているのか
コミュニティは、魅力的な仕事を提供する繁栄した企業のまわりに生まれる。そうしたビジネスモデルがもはや成立しなければ、コミュニティは崩れはじめる。その購買力によって作られた店舗や下請け業者は閉鎖し、若者たちは転出しはじめる。
これは特にアメリカのような若い国では深刻だ。工場は有機的な都市環境に建設されず、何もない場所にできてそれを核に新しいコミュニティが育ったからだ。
今日、アメリカのラストベルト地帯の一部に旅行すると、命も希望もないゴーストタウンにいるような陰気な雰囲気にとらわれてしまう。同じことが、いくつかの古いヨーロッパ工業都市でも感じられる。こうした風景を見たら、グローバル化が中産階級やよい仕事すべてを潰しているのを擁護できる者などいるだろうか?
だがちょっと待った。グローバル化がこのドラマの悪役だという証拠はあるのだろうか?
中国がグローバル経済に参加した影響
最も広く使われる例を見よう。中国が2001年のWTO加盟後にグローバル経済に参加したことだ。
2001年から2021年にかけて、アメリカにおける製造業雇用の比率は毎年0.2ポイントずつ下がり、これは明らかに当事者たちには苦しいことだろう。
だがこの減り方は、それ以前の数十年よりも減り方が少ないのだ。1960年から2001年にかけて、製造業職の割合は年率0.4ポイント近く下がり続けている。だからこれはいきなり始まった新しい現象ではない。長いトレンドが続いているだけだ─―しかもそのペースは鈍っている。