「優劣」ではなく「違い」ととらえる

誰かと何かを比べるのがよくないのは、そのとき、つい「優劣」をつけてしまうからです。これが落ちこみのもと。

では、優劣ではなく「違い」ととらえてみるとどうでしょう。

幻の童謡詩人と呼ばれた金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」という詩にあるように、

「みんなちがって、みんないい」

ということになりますね。

写真=iStock.com/Satoshi-K
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「自分は自分。ほかの誰かと比べることに意味はない」

というシンプルな事実に気づきます。

自分を主語にして、ものごとを考えられるようになるのです。

「違い」は「個性」という言葉にも置きかえられます。

そんなふうに考えられるようになると、コンプレックスという概念そのものがなくなるのではないでしょうか。

誰よりも“藤井聡太情報”に詳しいことを突き詰めてみる

とはいえ、それでも他人と自分を比べてしまうことはあると思います。それがふつうです。それならむしろ「人にはなくて自分にあるもの」に注目するといい。

そんなにすごいことでなくてもいいから、「自分にはこれがある」というものを見つけられると、人よりすぐれているとか劣っているとかが気にならなくなります。

「自分がはまっていること」「自分が好きなこと」「自分が得意なこと」「自分が詳しいこと」など、何でもいい。

そういうものが、この先も自分を肯定して生きていく「心の支え」になるのです。

たとえば、ぼくの教え子のある学生はフリートークの授業で、「将棋のことなら話せる」といって一年間、毎週、将棋の藤井聡太棋士の話だけをしました。

誰よりも“藤井聡太情報”に詳しいことに加えて、数学が得意だったようです。毎回、藤井棋士がどれだけ強いかを、数値化して紹介していました。

また別の学生は、鉄道が大好きで、ものすごく詳しい。どの路線のどの駅がおもしろいとか、この列車はここがすごいとか、話しはじめたら止まらない感じでした。

彼らが夢中になって話していると、それを聞いている学生にも熱意が伝染するのでしょう。一生懸命に耳を傾け、「へえ」を連発しながら、「すごいね」「よく知ってるね」「おもしろいね」と、ほめ言葉を投げかけていました。

そういう反応がまた、彼らの自己肯定感を高めることにつながったのです。

しかも、鉄道好きの彼は、鉄道の話を披露したことで、同じように鉄道好きの学生がクラスにいることが判明。二人は授業が終わってからも、ずっと仲よく、楽しそうにしゃべっていました。

得意なものや好きなものがあったら、ちょっと究めてみる。どこで役に立つかわからないけれど、鉄道好きの彼のように、楽しい人間関係が手に入ることもあります。