子猫の死体は冷凍庫で保管

かつてこの繁殖業者のもとで働いていたというアルバイトの女性はこう証言した。

「とにかく病気の子が多い。治療を受けさせてもらえないまま死んでしまう繁殖用の猫もいました。くしゃみや鼻水を出しながら繁殖に使われている子もいて、そういう猫たちは、絶対にお客さんの目には触れないよう隠されています。親の病気に感染して死んでしまう子猫も少なくなく、働いている間は頻繁に猫の死体を目にしました。子猫は死ぬと冷凍庫に保管し、ある程度死体がたまると、業者を呼んで引き取ってもらっていました。成猫は1匹1千円程度で引き取ってもらっていたようです」

繁殖用の親猫を増やし、子猫を増産するなかで劣悪な飼育環境に陥る業者が出てくる一方、バブル状態の市場環境は、新規参入を促す。

脱サラや定年退職して猫の繁殖業を始める人もいれば、「農家の人で、野菜を作るより猫を繁殖するほうが効率がいい、と始める人もいると聞く。安易に猫の繁殖を始める人が相当いる」(大手ペットショップチェーン経営者)といった状況だ。

1匹あたり10万~15万の価格がつく

「多少の小遣い稼ぎになればいいかなと思い、始めました」

そう話す関東地方南部に住む60代の男性は、2010年代に入り、勤務先を定年退職したのを機に猫の繁殖業を始めた。最寄りの駅から車で20分ほど。田園地帯のなかに時折あらわれる住宅地の一角に、男性の自宅はあった。

敷地の片隅に、繁殖用の猫たちが飼われている「猫舎」が立つ。猫舎のなかを案内しながら、男性は話す。本当は犬のほうが好きだが、犬は鳴き声がうるさくて近所迷惑になる可能性がある。猫よりも広いスペースも必要になる。だから、犬は断念したという。

開業に必要な繁殖用の猫は、埼玉県内の競り市で買ってきた。雄1匹、雌2匹。「いろいろ調べて、利口で飼いやすく、おとなしい性格と言われている種類の猫を選びました。その後に人気が出たので、『あたり』でした」。いまは約10匹の繁殖用猫を抱える。

交配させる時期を調整しつつ、年間20、30匹の子猫を出荷している。ペットショップのバイヤーに直接販売することもあれば、競り市に持っていくこともある。出荷価格は始めたころに比べて2、3倍になっていて、最近は1匹あたり10万~15万円の値がつく。つまり、年間300万円前後の収入になる計算だ。

「競り市だと、とんでもない高値がついたり、逆にものすごく安い時もあったりする。それはけっこう楽しいんです。ただ、競り市に出すと、ブリーダーさんに買われることがある。ブリーダーさんのところに行っちゃったら、絶対に幸せになれないですよ。一生、狭いケージに入れられるかもしれないんですから。私としては、なるべくかわいがってくれる人に買ってもらいたい。だからどちらかと言えば、ペットショップに直接売るようにしています」

写真=iStock.com/danishkhan
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