犬や猫などのペット市場が拡大を続けている。朝日新聞の太田匡彦記者は「猫の流通量は2014年度と2022年度の間で約2倍に増えている。たが、猫ブームの裏側には過酷な環境で猫を飼育する悪質なペット業者の存在がある」という――。(第1回)
※本稿は、太田匡彦『猫を救うのは誰か』(朝日文庫)の一部を再編集したものです。
「命をお金に換えることに罪悪感はありました」
猫の保護活動をしている男性がその住宅を訪ねると、強いアンモニア臭がおそってきたという。
住宅内では、30匹以上の成猫と10匹ほどの子猫が、複数の部屋にわけて飼われていた。糞尿にまみれた床には、共食いの被害にあったと見られる子猫の頭部が一つ、転がっていた――。
関東地方北部の、住宅地と田畑が混在する地域に立つこの住宅で、60代の女性は2007年からある純血種の猫を繁殖させていた。女性の自宅に近いターミナル駅で待ち合わせ、話を聞いた。
「命をお金に換えることに罪悪感はありました」
女性はそう告白し始めた。たまたま入ったペットショップで、雌猫を衝動買いしたのが始まりだったという。1匹だと寂しいだろうと、同じ種類の雄猫を続けて買った。2匹とも不妊・去勢手術をしないまま飼っていると、翌年から次々と子猫が生まれ始めた。
飼いきれず、近所のペットショップに相談したら、子犬・子猫の卸売業者を紹介された。女性はこう振り返る。
「業者に『ぜひ出してくれ』と言われて、売り渡しました」
それから、生まれた子猫たちを次々と売るようになった。