ペットブームが続くなかで、犬や猫の遺伝性疾患が問題になっている。朝日新聞の太田匡彦記者は「ブームになった犬種や猫種ほど遺伝性疾患になるリスクは高まる。一部の大手ペットショップチェーンは十分な対策を行っているが、中小規模の事業者は管理に手が回らず疾患リスクの高い個体を販売してしまっている」という――。(第2回)

※本稿は、太田匡彦『猫を救うのは誰か』(朝日文庫)の一部を再編集したものです。

獣医に診察される犬
写真=iStock.com/O_Lypa
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ペットビジネスが犬猫に与えた恐ろしい影響

ここで改めて、犬猫の遺伝性疾患について触れておきたい。その原因が、ペットビジネスのあり方と切っても切れない関係にあるからだ。

2004年にマサチューセッツ工科大学を中心とするチームによって犬のゲノム配列が解読されて20年が経ち、犬の遺伝性疾患についての研究は大きく進んでいる。これまでに原因遺伝子が一つに特定され、検査方法が確立された遺伝性疾患は、犬では約300ある(24年4月時点、ONLINE MENDELIAN INHERITANCE IN ANIMALS調べ)。

原因遺伝子を持っていても見かけは健康で発症しない「キャリア」同士の繁殖を行うと、4分の1の確率で病気を発症する可能性のある犬(アフェクテッド)が生まれる。つまり、繁殖業者が注意をすれば原因遺伝子を受け継ぐ犬を減らせる環境は整ったはずなのに、あまりそうはなっていない。

その背景として、遺伝性疾患に詳しい新庄動物病院(奈良県葛城市)の今本成樹院長は、繁殖業者が抱える問題を指摘する。ミニチュアダックスフントのなかでも白い毛が交じった「ダップル」という種類が一時期はやり、高値で取り引きされていた事例をひき、こう話す。

「ダップルという毛色になるには、マール遺伝子を受け継がなければいけない。だがマール遺伝子を持った犬同士の交配では、死産や小眼球症、難聴になる個体が確認されている。ブリーダーは、はやりの毛色を追求するばかりではなく、まずは健康を求めてほしい」