「人気犬種」が遺伝性疾患につながる

こうした状況について鹿児島大学共同獣医学部の大和修教授(獣医臨床遺伝学)は、人気5犬種(プードル、チワワ、ダックスフント、ポメラニアン、柴犬)だけで新規の血統書登録の6割以上(18年、ジャパンケネルクラブ調べ)を占めている現実に言及し、こう話す。

牧草地で走るプードル
写真=iStock.com/Krisztian Juhasz
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「ある特定の犬種がマスメディアの報道で爆発的に流行し、短期間で可能な限り多くの個体を生産する努力が払われる。そんな土壌が遺伝性疾患を顕在化させ、新たに作りだす要因になっていると推測される」

犬や猫の遺伝性疾患がいかに罪深いものか、ある柴犬たちの事例にここで言及しなければならない。

2019年の冬から春にかけて、3匹の柴犬が次々と息を引き取った。17年9月生まれのきょうだい犬で、それぞれの飼い主に「さくら」「もみじ」「大福」と名付けられていた。

3匹の飼い主に面識はなく、全く別の場所で飼われていたが、最初の春を迎えたころ、3匹とも頭が小刻みに震えたり、少しの段差でもつまずいたりするようになった。一般的な血液検査などでは原因がわからず、MRI検査までしてやっと病名が判明した。柴犬で多く見られる遺伝性疾患「GM1ガングリオシドーシス」だった。

「成長を楽しみにしていたのに悔しい」

生後半年ごろに発症する病気で、最初は歩き方に違和感が出る。次第に歩くのが困難になり、四肢がつっぱったようになって寝たきりに。多くが1歳半ごろには死んでしまう、致死性の不治の病。一方で人が意図的に交配の組み合わせを決めて繁殖する販売用の犬猫の場合、単一の原因遺伝子が特定されていて、検査方法が確立している遺伝性疾患であれば「予防」が可能だ。

血統書から、3匹は愛知県豊橋市の業者が繁殖した犬だとわかった。

19年1月、この繁殖業者を取材した。JR豊橋駅から車で30分ほど走った、住宅と畑が点在するなかに、その業者の犬舎はあった。平屋のプレハブ小屋に、柴犬ばかり数十匹が飼われていた。

40年以上にわたり繁殖業を営んできたという男性は「(遺伝性疾患の原因となる遺伝子を持っていると)わかっていれば交配に使わないが、そんなことは知らなかった。いい子が取れると、自分は自信を持ってかけた」と話した。3匹は、同じ母犬から生まれた別の3匹とあわせ、知人の繁殖業者を介して出荷したという。

さくらの飼い主だった中村江里佳さんがブログで病状を公表したことがきっかけで3匹の飼い主は知り合い、連絡を取り合った。中村さんは「大きくなったらドッグランで思いっきり走らせてあげようなどと想像し、成長を楽しみにしていた。悔しい」と言い、もみじの飼い主だった三原朋子さんは「家族として迎えた子が1歳半くらいまでしか生きられないと知った時は、たとえようもないほど悲しかった」と振り返る。