遺伝子検査を積極的に進めていたのだが…

3匹を仕入れ、販売したのはペットショップチェーン大手のAHBだった。皮肉にも、同社は他チェーンに先駆けて繁殖に使われる親犬猫の遺伝子検査を積極的に進めていた。

繁殖業者が検査する際の料金を補助。原因遺伝子を持つ親を割り出し、遺伝性疾患が出ない組み合わせで交配するよう指導していた。川口雅章社長は言う。「親の検査が思うように進まないなかで、不幸な事態が起きた。本当に申し訳ない気持ちになった。流通・小売業者としての責任を果たすには、子犬・子猫を調べるしかないという結論に至った」

同社は、親の検査のために数億円規模の支出を続けて「(20年度時点で)ほぼすべての親の検査を終えた」(川口氏)一方で、19年3月、販売するすべての子犬・子猫の遺伝子検査を始めた。

診療所で犬の患者を診察する獣医師
写真=iStock.com/Krisztian Juhasz
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犬は14疾患、猫は3疾患について検査。原因遺伝子を持っていても発症はしない子犬・子猫(キャリア)は、不妊・去勢手術を推奨したうえで原則として販売する。一方で発症の可能性がある子犬・子猫(アフェクテッド)が見つかった場合には販売せず、繁殖業者に返品することにした。

「すべては人によるセレクションの結果だ」

なぜ、犬種や猫種に特有の遺伝性疾患が存在するのか。探っていくと、子犬や子猫を買い求める消費者の側にも問題があることが見えてくる。犬種や猫種に特有の遺伝性疾患が発生する背景には、人がそれぞれの犬種・猫種をインブリード(近親交配)しながら固定化してきた歴史がある。

たとえば犬の「変性性脊髄症(DM)」は、ウェルシュ・コーギーの約8割が原因遺伝子を持っていることで知られているが、その保有率は低いものの100以上の犬種で見られる。こうした多犬種に見られる疾患は、オオカミから犬に家畜化された初期のころに遺伝子の変異が起き、多くの犬種に受け継がれたと考えられる。

一方で柴犬以外では報告事例がほとんどない「GM1ガングリオシドーシス」は、柴犬という犬種を作った後に遺伝子変異が起きている。「すべては人によるセレクションの結果だ」と大和教授は言う。

「歴史」のなかに限った話ではない。現在進行形で、消費者の嗜好しこうが影響を与えもする。

前出の筒井敏彦・日本獣医生命科学大学名誉教授は、この数年で明らかに減らせている疾患があると指摘する一方で、「特定の犬種、猫種のブームが起きると、業者がその品種の数を増やすことに集中し、健康な子犬・子猫を繁殖するという原則から外れていく心配がある。無理に(発症はしないが原因遺伝子を持つ)キャリアの犬猫を繁殖に使うようなリスクも高まる」と話す。