「先天性疾患が多くて当然」という呆れた主張

そもそも、ペットショップなどで販売される犬猫に健康トラブルが減らないのはなぜなのか。前出の経営者の男性が訴えたペットショップチェーン側の弁護士は、準備書面で次のように主張していた。

▽被告には胸骨陥没という認識はなかった
▽健康診断において、獣医師から本件猫に異常はないと診断されており、獣医師でも見逃す場合がある先天性疾患を、被告従業員が判断するのは難しい
▽ペットショップではペットをゲージ内で飼育保管しており、ゲージ内での運動量に限りがあるため、被告従業員らが本件猫の呼吸促迫や喘鳴ぜいめいに気付かなかったとしても不思議ではない(原文ママ)
▽犬猫といった愛玩動物(特にペットショップで販売される犬猫種)は、人間の好み(都合)に合わせて小型化したり新種をつくるために交配合を繰り返し、また、突然変異種を純血種とするなど、人の手によって血統が維持・左右されていることから、人間によって出生が左右される血統種愛玩動物の宿命として、雑種よりも、先天性疾患を持つ個体が必然的に発生しやすい
▽ペット購入時にはわからなくても、先天性疾患に起因して購入後に個体が死んでしまったり、重篤な先天性疾患が見つかったりすることもまれではない

つまり、ペットショップのショーケースのなかにいては確実な健康管理ができず、またそもそもペットショップで販売される犬猫には先天性疾患が多くて当たり前である、という趣旨の主張をしているのだ。

まじめに健康管理を行っている会社はごく一部

前出の犬の遺伝病などを専門とする新庄動物病院の今本成樹院長はこう話す。

「健康な子犬や子猫を作るのがプロの仕事のはずなのに、現実には、見た目のかわいさだけを考えて先天性疾患のリスクが高まるような繁殖が行われている。大量に販売する現場では、簡単な健康チェックしかなされず、疾患を抱えた子がすり抜けてくる。そして、病気の子はあまり動かないので、ショップの店頭では『おとなしい子です』などという売り文句で積極的に販売される。消費者としては、様々な疾患が見つけやすくなる生後3カ月から半年くらいの子犬や子猫を買うことが、自己防衛につながるでしょう」

太田匡彦『猫を救うのは誰か』(朝日文庫)
太田匡彦『猫を救うのは誰か』(朝日文庫)

まじめに生体の健康管理を行っている会社は少なからずある。

ただ当然ながら、多くの獣医師を社員として雇用したり、いったんすべての子犬や子猫を1カ所に集めてから流通させたり、また繁殖業者に直接指導をして遺伝性疾患の発生を抑制したり、といった取り組みには、相応のコストがかかる。

そこまでのことができるペットショップチェーンは大手でも一部であり、またそもそも中小規模のペットショップになると、実態はなおさらずさんになりがちだ。販売する犬や猫の健康トラブルを起こすような業者が一定程度を占めているというのが、残念ながら、現実なのだ。

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