「かわいいペット」への需要が病気の根源に
解決策はやはり親の遺伝子検査ということになるわけだが、津曲氏は「日本では、減らせるはずのものがなかなか減らない。業者の意識も問題だが、買う側のニーズが最大のネックになっているのでは」と指摘する。
繁殖業者は結局、「高く売れる犬猫」を「なるべく多く」繁殖しようという誘惑には、勝てないものなのだ。
大和教授もこう話す。「ブームを作り出す消費者の意識が、遺伝性疾患が増える根源となっている。消費者は自分の嗜好が市場を作りだし、犬猫の値を決めている自覚を持ってほしい。消費者が知識を持ってくれたら、事態は改善されていくはずだ」
一部のペットショップチェーンが子犬・子猫の生体管理に力を入れる一方、全体で見れば、ペットショップで犬や猫を買ったら病気にかかっていた――といったペットに関するトラブルはあとを絶たない。犬の推計飼育数が減っているとペット業界関係者が危惧するなかにもかかわらず、たとえば国民生活センターに寄せられる相談件数は高止まりしている。
「先天的な形成異常である頭部頸椎接合部奇形(CJA)と診断しました。水頭症、頭蓋骨形成不全、環椎軸椎不安定症(AAI)などを併発していますが、治療のすべがない」
大学付属動物病院でそう獣医師から告げられ、東京都三鷹市に住む会社員の女性(35)は頭が真っ白になったという。2014年5月、大手ペットショップチェーンの店舗に何度も足を運んだ末、約30万円で購入した雌のチワワ。自宅に迎えてから、重大な先天性疾患が明らかになったのだ。
ペットに関するトラブルは年間1千件を超える
2歳になっても、1日のほとんどをケージのなかで過ごさせるしかない。12時間おきに薬を飲ませる必要もある。治療費の負担は重い。ペットショップとの話し合いで「犬を返却していただき、購入額を返金します」と提案されたが断った。女性はこう話す。
「お金がほしいわけじゃない。病気の犬を繁殖させたり、売ったりしている業者がいることが許せない。犬にも命があるのに、そのことを軽く見られているのが悔しく、悲しい」
国民生活センターには15年度だけで、ペット店などで購入した動物に関する相談が前年度比5%増の1308件寄せられていた(16年5月15日集計)。その大部分が「買ったら病気にかかっていた」などペットの健康にまつわる内容だったという。
「年1千超という相談件数は、各種相談のなかで目立って多い。状況が改善されないまま、相談件数が高止まりしているのは問題だ。トラブルが減らないため、購入時に病気の有無や保障内容についてよく確認するよう呼びかけている」(国民生活センター相談情報部)