市民や専門家の意見を反映する実効性ある仕組みの欠如

こうした地域の実情に即した課題を事前に明らかにし、その予防策を図っていくためにも、再開発事業を進めるプロセスの中に、地域のことを良く知る市民や専門家の意見を公開された場で聞く場は設けられていないのだろうかと疑問に思われる方も多いだろう。

都市計画法の中には、都市計画決定に際し、自治体が必要に応じて開催する公聴会の場と意見書の提出という市民の声を聞く機会が設けられている。また、都市計画決定に際して開かれる都市計画審議会には、学識経験者などの専門家が委員として関与しており、提出された意見書を付して都市計画の案を審議する仕組みになっている。

ただし、都市計画決定の前に市民の意見を聞くために提示される案や都市計画審議会で審議される案は、民間事業者と自治体の間の開発協議(非公開)がすでに完了した段階のものなのだ。

たとえ多くの反対意見書が届いていても、また、都市計画審議会で専門家から何らかの意見が出たとしても、筆者の知る限り、ほとんど計画案に反映されることはない。都市計画の専門家の中でも、都市計画審議会自体が形骸化しているのではないかと問題視する声は根強い。

もちろん、再開発事業の準備組合や事業者等によって任意の説明会が行われることもあるが、説明会に参加できる住民等の範囲を限定しているケースもあり、広くさまざまな意見を聞こうとする場にはなっていないことが多い。

このように、現行の再開発事業における法的な仕組みだけでは、「市民がないがしろにされているのではないか」と言われても仕方がない状況となっている。そのため、計画段階から実効性のある市民参加プロセスを導入することが強く求められている。

事業者側の「売りっぱなし」というメリット

都心や駅の近くといった立地のタワーマンションとなれば、職住近接などのニーズに加え、ホテルライクな生活や利便性の高さ、加えて資産価値がさらに上がるという期待感から、確実に購入層が見込める。

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とくに東京都心などでは、自ら住む目的で購入する実需層に加えて、富裕層や外国人などの投資・転売目的の買い手も多い。

海外の投資家からすれば、ここ最近の記録的な円安で、海外の都市よりも安く購入でき、価格も下がりにくい傾向にある日本の不動産は魅力的に映る。これが、NHKのクローズアップ現代でも取り上げられた、「バーゲン・ジャパン 世界に買われる“安い日本”(1)不動産」(2022年7月26日放送)と呼ばれる傾向である。

また、デベロッパーにしてみれば、分譲マンションにすれば短期で資金を回収できるうえ、一度売ったら、あとは管理組合が維持管理することになるため、いわば、「売りっぱなし」でよく、賃貸住宅にするよりも事業リスクが低い。

このように、デベロッパー側も、収益性が見込めるタワーマンションをつくることができる再開発事業に参画することに大きなメリットがあるのだ。