ゴールなき規制緩和の罪

ところが、個々の開発案件において容積率割り増しでつくられる住宅の戸数が地区・都市全体の中で妥当なのかどうかについて評価・調整されているわけではない。また、そのための法制度上の枠組みや要件もない。

その結果、開発需要が高いエリアを中心に、あちらこちらで開発案件が旺盛にたちあがり、その地区・都市全体で供給される住宅数はますます積みあがり、一極集中や過密化の助長を止められないのである。

いわば「ゴールなき規制緩和」、「ゴールなき住宅建設」が続いているわけである。

近代的な市街のパノラマ
写真=iStock.com/voyata
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全国各地で大都市ですら人口減少が深刻化していく中では、開発需要のあるところだけの一極集中がさらに助長される形ではなく、また市街地をこれ以上むやみに広げることなく、国土全体のバランスをどう確保していくのかという都市政策が極めて重要になる。

つまり、個々の再開発事業という部分最適な「点」の視点ではなく、都市圏という「面」の視点から、都市機能や居住・産業機能のバランスを確保するために容積率等の規制緩和による「ゴール」を設定し、実効性のある形で個々の自治体が都市政策を講じるという枠組みづくりが必要不可欠になっている。

人口の確保に効果的な“タワマン開発”だが…

特に近年では、大都市の都心部だけでなく、郊外や地方の自治体でもタワーマンション建設が主目的では? と見えるような再開発プロジェクトも多く見られるようになった。

国立社会保障・人口問題研究所の推計(2023年推計)で、2040年以降には全都道府県で総人口が減少すると予測される中で、市町村からしてみれば、人口減少が進むことへの強い危機感がある。

そのゆえ各市町村は、当然でもあるが、自分たちの街はとにかく人口や固定資産税などの税収を増やすための都市政策を講じようということになる。そのためには、民間の資金やノウハウを活用し、タワーマンション建設で一気に多くの人口を取り込むことができる再開発事業という手法にはメリットが大きい。結果、容積率をはじめとする規制緩和や補助金の投入に積極的になっているところも多い。

ところが、前回の記事で取り上げた、さいたま市の事例のように、再開発事業を行うことで、その周辺にも波及してマンション建設が相次いでいくことも多い。その結果、一気に地域の人口が過密化し、学校や病院といった生活インフラのキャパオーバーという事態を引き起こすこととなる。そして、小学校等の公共施設整備費が増加し、財源不足や自治体の貯金に当たる財政調整基金を取り崩さざるを得ない自治体も出現している。