2019年の台風19号では、武蔵小杉エリアのタワーマンションが大きな被害を受けた。住宅ジャーナリストの榊淳司さんは「武蔵小杉のタワマンの場合は、地下3階に設置してあった電気室が冠水して、建物内の電気が使用不能になった。電気室が地下に設置されている場合は要注意だ」という――。

「内水氾濫」によるタワマンでの被害

また、台風の季節がやってきた。

ここ数年、首都圏は台風によって大きな被害を受けていない。記憶に残る直近の台風の大きな被害は2019年10月の台風19号だろう。あの台風では多摩川の一部で水が堤防を越える越水が発生した。

台風19号の影響で水位が上がった多摩川の丸子橋(手前から2本目)付近=2019年10月13日、手前は東京都大田区、奥は川崎市中原区(共同通信社ヘリから)
写真=共同通信社
台風19号の影響で水位が上がった多摩川の丸子橋(手前から2本目)付近=2019年10月13日、手前は東京都大田区、奥は川崎市中原区(共同通信社ヘリから)

そして、川崎市内では「内水氾濫」によるタワマンの被害が発生している。

内水氾濫とは、市街地などで短時間に激しい雨が降った際に、下水道や排水路などの排水施設の能力を超えて雨水が排水できず、建物や土地、道路などを水浸しにする現象である。

2019年の台風19号では、武蔵小杉エリアのタワマンの地下4階部分がこの内水氾濫に見舞われ、地下3階に設置してあった電気室が冠水。建物内の電気が使用不能になったのだ。

これはおそらく、台風によってタワマンに大きな被害が出た初めてのケースではなかろうか。けが人などは出なかったのが不幸中の幸いである。

ただし、タワマンという住形態は、電気が使えなければただの鉄筋コンクリートの箱である。電力が正常に供給されていてこそエレベーターや上下水道が使えるが、それが途絶えると不自由極まりない住空間となる。

最も困るのは中層階以上に居住している人々である。

まず、建物内の上下移動はエレベーターが止まれば、すべて階段を使うしかない。5階や8階くらいなら、がんばれば何とか数往復くらいはできるだろう。ただし、高齢者には負担が大きすぎる。

ならば「高齢者は出かけなければよい」という考えもあろうが、そうもいかない。なぜなら、電気が止まるとトイレが使えなくなるからだ。

汚水槽の中身を下水道に排出するために電力が必要

タワマンの場合、建物の下部にトイレの汚水などをいったん貯める汚水槽が設置されている。その汚水槽にたまった屎尿類を公共汚水用下水道に排出するためには電力が必要なのだ。電力供給が不可能になった件の武蔵小杉のタワマンでは、地下の汚水槽から公共下水道への排出が不可能となった。

汚水槽がいっぱいになっているのに上層階で水洗トイレを流すと、下層階住戸のトイレに逆流してしまう。

だから、電気機能が麻痺したその武蔵小杉のマンションでは、緊急の館内放送でトイレの使用中止を伝えたという。そして、各住戸には簡易トイレが配られた。つまり、排せつ物を住戸内でいったん保管する必要があった。

ちなみに、水道も使えない状況なので、簡易トイレの使用はかなり不衛生な危険が伴う。

多くの人はそれを嫌ってホテルや親戚の家へと避難したらしい。ただ、そういうことができない事情の方も少なくなかったようだ。

30階あたりに住む人が、1階に設置された臨時のトイレを利用するために毎日何回も往復した、という体験談も語られている。