管理組合の対応にも問題があったと考えられる

さらに、このタワマンの管理組合のあまり賢明でない対応にも問題があったと私は考える。

この事象が発生した直後から、私のところには様々なメディアから問い合わせや取材の依頼があった。そこで分かったことは、管理組合が住民に箝口令を敷き、「メディアの取材には一切応じるな」と命じたのだ。不都合なことは一切隠蔽する、という専制国家の手法を採用してしまったのだ。

しかし、日本のような国で事実を隠蔽し続けることは不可能に近い。その対応に反発したメディアはこの被災した武蔵小杉タワマンに対して冷ややかな報道を流し続けた。記者たちも人間である。「敷地には一歩も入るな」「お前ら、出ていけ」と言われれば、気分がよくないのも当然だろう。

結果、このタワマンはSNSなどで揶揄され続けたようだ。私が知る限り、現在は資産価値への悪影響は払拭されているが、被災後1~2年程度は中古市場での取引が著しく不活性化していた。

マンションの模型を持つ人
写真=iStock.com/mapo
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すべてのタワマンで電気室移転が行われたかは不明

そしてこの武蔵小杉タワマンの台風被害は、その他にもいろいろな教訓をもたらした。

まず、この場合の内水氾濫の原因は、雨水などを河川に放出する水門が閉じられなかったことにより、水位が上昇した多摩川からの逆流が原因とされている。

その水門を管理していたのは川崎市だ。今はその開閉が電動化され、リモコンでも閉じられるようになった。

さらに、このマンションの電気室はその後地下3階から氾濫による冠水被害の心配がない上の階に移設されたという。

この事件以降に計画されたタワマンは、電気室を地上3階以上に置く設計になっていると推測する。また、既存のタワマンで地下に電気室が設置されている物件は、3階以上への移設を行ったケースもあるはずだ。

ただし、そういうことは管理組合や管理会社の危機意識の強弱に影響される。電気室移転の話は出たが、事件の記憶が薄らぐとともにナアナアになっているケースも少なくなさそうだ。もちろん、少なくないコスト負担も伴う。

中には「うちのマンションは多摩川から離れているから大丈夫」なんて考えて、何もしていないケースもあるだろう。