「イトーヨーカ堂」の分離を求めたバリューアクト

バリューアクトによる株式保有が明らかになったのは2020年。傘下に不採算事業を抱え続けてグループ全体の収益力を削いでいる「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれる状態を解消するために、好調なコンビニエンスストア事業に特化することを求めた。こうした要求に対してセブン&アイ側は2022年、百貨店の西武・そごうの売却検討を公表、社外取締役の増員などを打ち出したが、バリューアクト側は不十分だとして攻勢を強めた。焦点は不振が続くスーパーの「イトーヨーカ堂」の分離だったが、井阪社長らは「祖業」であるイトーヨーカ堂の切り離しに抵抗。2023年5月の総会に向けての委任状争奪戦となった。

結果は会社側の提案の議案が通り、井阪社長らの続投が決まったが、株主の支持を集めるために、改革策を打ち出さざるを得なかった。2023年3月には、社外取締役だけで構成する「戦略委員会」を設置、「株主価値の最大化」に向けた提言を行うこととした。委員は8人で、委員長にはスティーブン・ヘイズ・デイカス氏を据えた。結局、井阪氏らは経営権を握り続けるために、株主価値の最大化に向き合っている姿勢を取らざるを得なくなったわけだ。

イトーヨーカ堂の分離に事実上踏み出した

2024年4月の記者会見で井阪社長は、イトーヨーカ堂を含めたスーパーマーケット事業について、2027年以降の株式上場に向けた検討を始めると発表した。これは戦略委員会の提言に基づいたもので、長年拒絶し続けてきたイトーヨーカ堂の分離に事実上、踏み出すものだった。さらに、ガバナンスの強化にも踏み出し、取締役会議長と最高経営責任者の分離を決定。デイカス氏を取締役会議長に据えた。これに対して、バリューアクトは賛成意見を表明。5月の株主総会で井阪社長の再任に賛成する姿勢を見せた。

こう見てみると、井阪体制は、海外のアクティビストの要求にジワジワと追い詰められてきたことが分かる。西武・そごうの百貨店事業も2023年にファンドに売却され、スーパー事業の切り離しもスケジュールに乗った。そうした中で、アリマンタシォンがセブン&アイに買収提案をしてきたわけだ。「コングロマリット・ディスカウント」が解消されることが確実視されるようになったからだ。

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