不採算事業をなかなか手放せない日本企業
伝統的な日本企業は「コングロマリット・ディスカウント」の構造が経営に染み込んでいる。不採算事業を抱えていても、なかなかそれを売却して切り離したり、廃業することができない。実力者である会長や社長の出身部門が赤字だとしても、取締役がそれに異を唱えることは難しい。ましてや、その会社の発祥に遡る「祖業」に手を付けることは事実上不可能というケースが少なくない。本来、こうした不採算事業を切り離して収益性の高い部門に資源を集中することこそが経営で、「リストラクチャリング(構造改革)」のあるべき姿だが、日本では「リストラ」は人員削減の代名詞になり、事業整理を意味しなくなっている。
持ち株会社の下にさまざまな事業がぶら下がるホールディングス体制を採る企業が増えて、株主や投資家にも、不採算事業が鮮明に見えるようになった。モノ言う株主が事業再編を求めるようになってきたのはそのためだ。アクティビストと呼ばれる海外投資ファンドは特に収益性の高い事業への特化を求めることが多い。
こうした「外圧」が日本の伝統的な経営スタイルを徐々に変えていると言ってもいいだろう。
日本の経済社会のカルチャーを大きく変える可能性
これまで海外企業からの日本企業へのM&Aがなかなか起きなかった一因は、「コングロマリット・ディスカウント」を内包した企業経営スタイルでは、傘下に収めても経営が難しいと見られてきたことがある。日本の場合、企業の従業員の解雇をすることが難しく、外資が買収したとしても、自国流に不採算部門の従業員をクビにすることは難しい。日本企業を買収する際、自分たちが必要な事業だけを買うことができるようになれば、相乗効果などを測り易い、というわけだ。
もうひとつ、アリマンタシォンによるセブン&アイの買収提案が、日本の経済社会のカルチャーを大きく変える可能性もある。外国資本を受け入れていくには、経営スタイルを国際標準に合わせて変えていくことが求められるが、従来はともすると、日本で企業買収がうまくいかない理由が、日本企業の経営が異質だからという結論になりかねなかった。今回は海外投資家にも信頼を得てきたデイカス氏が検討する社外取締役の特別委員会を束ねており、株主が納得できないような理屈で提案を拒絶することはないだろう。