長時間労働を規制しても「過労死」はなくならない
国が推し進める「働き方改革」の根拠の1つが「過労死」だ。
国は、発症前の1カ月に100時間、2~6カ月の月平均が80時間の時間外労働を「過労死ライン」とし、一般則の時間外労働を原則「年間720時間」(月60時間まで)としたが、ドライバーに対しては、「年間960時間」(月平均80時間)とした。
これに対し、違反する運送事業者には「6カ月以下の懲役、30万円以下の罰金」という法的措置を取るとしているが、施行直前2023年10月の段階では、この年間960時間が守れない事業者が25.1%も存在している。
過労死はトラックドライバーにおいて深刻な問題で、2023年の脳・心疾患における労災支給決定件数は64件。
2001年の統計開始から「運輸業」は、2005年に製造を抜きワーストに。2009年にデータが「運転従事者」に細分化されて以降も、ワーストが15年更新されている。
ドライバーや道路使用者の命を守るためにも、過労死対策は「人手不足」や「物流の停滞」以上の急務だ。しかし、長年彼らの現場を見てきた筆者は、働き方改革が「時間」ばかりを是正したり変更したりしていることに、施行前から懸念してきた。
この方法では労働環境改善には直接繋がらず、場合によってはむしろ状況を悪化させることにもなるからだ。
問題なのは「労働時間」ではなく「拘束時間」
過労死の議論の中で、よく「トラックドライバーは他業種に比べて労働時間が長いから過労死が多い」という言説を耳にする。
もちろん無駄な長時間労働は是正されるべきだし、過労死の一因でもあるだろう。が、トラックドライバーの“働く時間”と他業種のそれは、単純に比較できるものではない。
「単位」が違うからだ。トラックドライバーの“働く時間”は実質、一般則の「労働時間」だけではなく、「拘束時間」で定められている。
拘束時間とは、「実務労働時間(実際に働いている時間)」と「休憩時間」を合わせたもの。
その名の通り「拘束されている時間」のことを指す。トラックドライバーの1日、1カ月、1年の労働体系は、「改善基準告示」というルールによって、この「拘束時間」と「休息期間(翌日までの完全自由な時間)」で構成されているのだ。
つまり、他業種とドライバーの働く時間を単純に比較することは、例えるなら「体重で身長を測っている」のと同義なのである。
運転時間より長い「待機時間」
そんなドライバーの拘束時間に対して特筆すべきは、そのうちの「実労働時間」には、彼らの主業である「運転」や「付帯作業」はもちろん、「荷待ち時間」や「時間調整」といった、「待機時間」が含まれていることだ。
言い換えれば、この待機は「休憩」ではなく、原則「仕事扱い」になる。
のちほど詳説するが、トラックドライバーにはこの待機が非常に長い。なかには運転している時間より待つ時間のほうが長いケースもある。