最も過酷な労働環境に晒されてきたドライバー
「荷物の3割が運べなくなる」と試算されている「2024年問題」の発生まで残り半年を切った。きっかけは、2024年4月1日から「自動車運転業務」の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されること。長時間労働が慢性化しているトラックドライバーなどが、労働時間の短縮を余儀なくされる。そうでなくてもドライバー不足に悩んでいる運輸・物流業界にとって、死活問題になるのではないかと見られている。果たして、この「難局」を物流企業だけでなく、社会全体としてどう乗り越えていくか。
トラックドライバーが最も過酷な労働環境に晒されてきたことは統計にはっきりと表れている。「過労死等の労災補償状況」という厚生労働省の統計によると、2022年度に「脳・心臓疾患」で労災が支給決定された業種で最も多かったのが「道路貨物運送業」の50件。2位の「総合建設業」の18件を大きく上回り、最も人数が多い業種だった。50件のうち、19件が死亡している。
労災は業務との因果関係の立証などでなかなか認定されないとされる。実際、「道路貨物運送業」の労災申請は133件に達している。
「ともかく速く」運ぶという業界慣行
働き方改革が進められてきた中で、トラックドライバーの労災がなかなか減らない背景には、「自動車運転業務」だけが「例外扱い」になってきたことが大きい。2019年から始まった働き方改革関連法の施行で、時間外労働の上限は年720時間と決まり、同年4月から実施されている。中小企業は1年遅れの2020年から始まった。ところが、「自動車運転業務」については、上限が960時間に設定され、しかも施行日が2024年4月からと、5年も先送りされてきたのだ。
理由は、労働実態が法律の上限規制からかけ離れていたこと。長距離トラックなどでは、サービスエリアで仮眠を取って走り続けるのが当たり前で、しかも早朝に市場などに荷物を届けるために深夜走り続けている。それに規制をかければ、物流が止まり、経済活動がストップしかねないということで、5年間にわたって適用されずにきたのだ。この間、「業界慣行」を見直すなど、業務全般を変えていく動きも見られたが、現実には状況はほとんど変わらなかった。
最大の業界慣行は、「ともかく速く」運ぶという仕組み。注文を受けたらその日のうちに集荷して翌日には届ける。これは私たち消費者にも責任があって、電子取引で注文して翌日届く「便利な生活」が当たり前になっている。