「賃金減って副業」の本末転倒
こうして長時間労働に対して言及すると、毎度「長時間労働を肯定しているのか」という声が聞こえるのだが、全くそんなことは思っていない。
誰しも長くは働きたくない。しかし、トラックドライバーが長く働こうとするのには理由がある。「賃金」だ。
労働時間が減った分、賃金が保証されるならばいいが、多くが歩合制の現場では、現状そうなっていない。ましてや先述したとおり、今の物流を支える50代以上のドライバーたちは、稼ぎたくてこの業界に入ってきた人たちが多い。
施行後最初の給料日直後、SNSで取った簡易アンケート(n=491)では、30.1%のドライバーが「給料が下がった」と回答。ただでさえ長時間労働と低賃金が表裏一体化しているのに、働き方改革で労働時間が短くなったことで、いままで出られていた「航海」の本数が減り、給料が月10万円下がったケースもある。
これで一部のドライバーが始めようとしているのが「副業」だ。簡易アンケート(n=503)では、60%超のドライバーが副業を前向きに考えているとした。
本来、荷主側が強いてきた無償の荷待ちや付帯作業を排除、または有料化を義務化し、ドライバーの"無駄な"拘束時間が淘汰されるべきなのに、「長時間労働こそ過労死の主因」と一律で全ドライバーの拘束時間を制限したため、ゆとりをなくしたドライバーが増加したり、給料が減ったドライバーが副業を始め、むしろ労働時間が増えたりするという、本末転倒の極みのようなことも起きているのだ。
過労死がなくならない本当の原因
冒頭、「長時間拘束のためドライバーの過労死が多い、とする考えは安直だ」、としたが、では他の要因は何なのか。それは、労働環境に起因するドライバーたちの「悪習慣」だ。
先述したように、ドライバーは常に過酷な肉体労働をしているわけではない。運転はもちろん、前出の「時間調整」や「荷待ち」も、車内で座っていることが大半だ。
しかし、この荷待ちが楽というわけでは決してない。
「呼ばれたらすぐに入れるところで待っていろ」と指示しておきながら、待機所を用意してもいないため、トラックは必然的に路上駐車になる。
この路上での待機は、ドライバーの精神状態を悪くする要因でしかない。
仮眠中、周囲がどれだけうるさくても起きないのに、たった2回窓を叩く「コンコン」音で飛び起きるのは、潜在的に罪悪感があるからだ。その「コンコン」が警察だった場合、無論切符を切られるのは、待たせている荷主ではなくドライバーである。
そんな待機中、環境問題や近所迷惑だからと「アイドリングストップ」を指示してくる荷主もいる。今日のような外気温40度の中でもだ。筆者は夏が近づくたび、「今年は熱中症で何名が犠牲になるのか」と憂いている。
暑さに耐えきれず、冷蔵冷凍車のドライバーは荷台に駆け込み運んできた食品と並んで涼を取ったり、なかには「地面は冷たいから」とクルマの下に潜り込んで待つドライバーまでいる。