その間は運転業をするでもなく、体力を酷使しなければならない時間でもなく、ひたすら呼ばれるのを、または時間になるのを待つ。

こちらも後述するが、その待機時間は決して楽なものではない。が、トラックドライバーの拘束時間は、世間一般が想像するような「肉体労働」や「運転」がその長時間労働の間続いているわけではないのだ。

これらのことから、ただ拘束時間が長いからドライバーは過労死が多い、とする考えは安直だといえるのだ。

荷主から指示される「荷役」と「荷待ち」の理不尽

トラックドライバーの働く時間が実質「拘束時間」で定められているのは、「働く時間」があまりにも不安定だからだ。天候や事故、渋滞によって道路状況が日々変わるため、1日のスケジュールを立てることすらままならない。

しかし、何よりも彼らの働く時間を不安定にさせているのは、荷主から指示される「荷役」と「荷待ち」だ。

「荷役」は、荷主先での荷物の積み降ろし作業のことを、「荷待ち」は、その積み降ろし作業をするまでの待機時間のことをいう。荷役には、フォークリフトではなく、手で1つ1つ荷物を積み降ろしする「手荷役」を強いる荷主も非常に多い。

先述した90年の規制緩和で荷主至上主義になった現場では、必要なものを必要な時に必要な分だけ荷物を受け入れる「ジャストインタイム方式」によって、トラックの荷台をいわば“倉庫代わり”にする動きが活発化した。

こうして荷主が自身の効率化ばかり追い求めた結果、いくらドライバーが早めに出発して指定された時間を死守しても、「まだ準備できていないから、呼ばれたらすぐ入れるところで待機していろ」という荷主のひと声で、その努力が一瞬で吹き飛ぶ状態になる。

筆者が取材してきた中で最も長い荷待ち時間は21時間半。ドライバーは「荷主至上主義」のせいで、「無駄な長時間拘束」から脱却できないでいるのだ。

倉庫で荷物を運ぶ作業員
写真=iStock.com/Hakase_
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働きにくくなった原因

冒頭で「働きにくくなった」と答えたドライバーが37.8%いたと紹介したが、その要因を聞くと、「効率性を求められるようになった」、「ギリギリのスケジュールを余儀なくされるようになった」とする声が非常に多い。

国が令和3年(2021年)に行ったアンケートでは、荷待ちと荷役の平均はそれぞれ約1.5時間ずつの約3時間。

本来は、この"運ばせる側の3時間"を解消して長時間労働を是正すべきなのだが、現場では、施行後も依然として「6時間の荷待ち」、「30kgのコメ袋数百個を手荷役」を強いられている"運ぶ側"のドライバーにまで「効率」を求めるようになったのだ。

そのせいで、なかには出勤時間が昼夜逆転したり、あと1時間走れば会社に戻れる(退勤できる)のに、SA・PA(サービスエリア・パーキングエリア)で1日走れる制限がきてしまい、車中泊して翌日帰庫するケースも。

何よりも懸念すべきは、運転中、眠くなったら素直に仮眠できるような「安全運転上のゆとり時間」が消えたことだろう。

つまり、「過労死対策だ」と闇雲に拘束時間を短くしたことで、ドライバーの労働環境を悪化させる原因にもなっているのである。