あなたはECサイトから届いた段ボール箱にキズがついていたら、配送業者にクレームを入れるだろうか。元トラックドライバーの橋本愛喜さんは「そうしたクレームを恐れて、物流現場には大きな負担がかかっている。『顧客至上主義』の問題を考える必要があるのではないか」という――。
段ボール箱を持つ配達員
写真=iStock.com/Drazen Zigic
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物流危機を招く日本の「段ボール問題」の根深さ

あなたはECサイトから注文した品物が届いたとき、その品物が入っていた段ボール箱をどうするだろうか。

注文したのは「品物」であって、「段ボール箱」ではないから、ほとんどの人は処分するはずだ。この「捨てる段ボール箱」をめぐって、日本の流通現場には大きな負担がかかっている。

大企業に対する時間外労働の上限規制(年720時間)の適用(一般則)から5年遅れて、2024年4月、トラックドライバーにも「働き方改革関連法」の上限規制(年960時間)が適用され、彼らの労働時間が短くなる。

これによって生じる「物流の2024年問題」が昨今メディアでも取り上げられるようになり、ドライバーの存在価値と、その労働環境が見直されてきているが、それぞれの現場では、長時間労働云々以前に、業界に古くから存在する多くの商習慣が彼らを苦しめている。

なかでも最も理不尽であるうちの1つが、この「段ボール箱問題」だ。

日本の物流現場では、海外に比べて荷物が極めて丁寧に取り扱われており、段ボール箱に大きなキズがつくことはほとんどない。その一方で、梱包こんぽう材であるはずの段ボール箱に、ほんのわずかなキズが付くことも許されない「顧客至上主義」が現場を苦しめている。

「梱包材」か、「商品」か…角が潰れるとクレームが書き込まれる

筆者の周囲に「段ボール箱にキズがついていたとき、クレームを入れるか?」と聞くと、多くの人は「段ボール箱のキズなんて気にしない」と答える。

しかし、物流現場では、「カドが潰れていた」とか「擦れて黒ずんでいた」として強いクレームが入ることがある。大手ECサイトのレビュー欄を見ても、商品の内容ではなく、「段ボール箱にキズがあった」という理由での最低評価は珍しくない。