「カリフォルニアから来た娘症候群」

このほか近くに住んでいるご家族と十分な時間をかけて話し合い、決まっていたはずの治療方針が、遠くから来たご家族にひっくり返されることもあります。海外でもこうした事例はあるようで、「カリフォルニアから来た娘症候群」と呼ばれています(※1)

当然、遠くの家族は娘とは限りません。九州で勤務医をしてきた私の経験では、治療方針に異議を唱える遠くの家族は、たいてい「東京から来た息子」でした。九州在住の娘がずっと親の介護をしてきたものの病状が悪くなり、積極的な延命処置はせずに自然にお看取りしましょうという方針だったものの、東京から帰ってきた息子が反対して人工呼吸器の装着や大学病院への転院を要求するのが典型的なパターンです。

息子さんの気持ちもわかります。久々に会った親が弱っているのに、積極的な治療はしないというのですから、何かしたいと考えてしまうのは無理もありません。ですが、現場は混乱します。しかも、お看取りが選択肢に入るような高齢者に高度医療をほどこしても効果は乏しく、かえって本人の苦痛を増やすことになりかねません。こうしたことを避けるため、私は「他に主治医の説明を聞きたいというご家族がいらっしゃれば、ご説明の用意があります。電話でもかまいません」などと説明しておくようにしています。

※1 The Daughter from California syndrome

写真=iStock.com/LightFieldStudios
※写真はイメージです

医療の質を上げるコスパのいい方法

最後に、質の高い医療を受けるために、きわめてコストパフォーマンスがよい方法をお教えします。それは、患者さんも医師もお互いに丁寧な挨拶を心がけることです。

当たり前のことだと思う人も多いと思いますが、現実では必ずしもそうではありません。医師にも横柄な態度をとる人がいるように、患者さんにも横柄な態度をとる人もいます。かつては医師が高圧的で威圧的な態度をとることが問題とされていましたが、今では医師と患者の関係が対等になってきていることの表れかもしれません。対等な立場になるのはとてもいいことですが、そうであっても挨拶をしないのは礼を欠いています。

医師には礼儀正しくする一方で、看護師やそのほかの職員には横柄な態度を取る患者さんもいます。看護師もプロフェッショナルですから、そんなことで看護の手を抜いたりすることはありませんが、信頼関係を築くのは難しいでしょう。丁寧な挨拶をするだけで信頼関係を築けるのなら、やって損はありません。

患者さんとご家族、そして医師とさまざまな医療職が協力し合うことで、よりよい医療を提供できます。みなさんのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

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