共通する要望は「新型コロナウイルス専門の病院を」

新型コロナウイルス感染者が急増している。それを伝える報道は「医療崩壊」を強く示唆している。院内感染が発生した、PCR検査がなかなか受けられない、薬もワクチンもない……。だが、さまざまな地域の救急現場を密着取材してきた私にとって、ここ最近の報道は「医療崩壊」という言葉を正しく使っていないように感じられた。

感染予防の装備を着用して診察にあたる今明秀医師
感染予防の装備を着用して診察にあたる今明秀医師

そこで今回、全国各地のベテラン救急医に現場の状況を聞き、リアルな声を伝えたいと思って筆をとった。取材が可能であった救急医10人のうち半分は救命救急センター長で、かつ感染者の少ない地方だけでなく都市部の救急医も含まれている。

医療崩壊には明確な定義はないものの、現状では二つの意味に整理できる。

一つは「通常の医療ができなくなること」。救急医療は脳血管疾患やがんの急変、交通事故など“一生に一度”といえる事故や病気が集結する場だ。現在、新型コロナウイルス感染者の急増で、病院によっては突発的に発生する病気や事故へ十分に対応できなくなりつつある。社会が目指すべき地点は、新型コロナウイルスによる死を防ぐだけでなく、その地域全体の死亡率を低下させることである。そう考えれば、通常の救急医療機関と新型コロナウイルスへ対応する医療機関を本来分けるべきである。

取材した救急医10人の中でも、6人が「新型コロナウイルス専門の病院を作ってほしい」と口にした。感染症疑いの患者しか受診しないのであれば、防護服を着用したままでいられる。目の前にコロナウイルスの感染者がいてもきちんと防護服を身にまとえば、かなり感染リスクが抑えられることがわかっている。しかし現状は脱ぎ着しなければいけない。

新型コロナウイルス感染者と通常の救急患者を分ける。それができれば通常の医療が崩壊する恐れはかなり低くなる。ただし、医療機関が少ない地域ではどうしても一カ所の医療機関で担わなければならない。そういった場合でのヒントになる「大阪方式」については記事の後半に触れる。