「安全」は医師が示せるが、「安心」は自分で生み出すしかない

「東京で起こっている医療を見て、地方では医師会を早く動かすことが鍵だと思いました。まもなく全国の市町村医師会が自主的にPCRセンターや(軽症者が滞在する)ホテルへの看護師提供、医師派遣をするでしょう。それが始まるまで、われわれ地方の救命救急センターが時間稼ぎをします」(今医師)

八戸市立市民病院院長の今明秀医師
八戸市立市民病院院長の今明秀医師

そして医療崩壊を防ぐ三つめの大きな要素は、私たち国民の意識だ。新型コロナウイルスにまつわる医療に“完璧”を求めることが、医療関係者の負担を増す。どれだけ医師が「今のところは症状もないし安全ですよ」と言っても、安心しない患者が多いという。「安全と安心」は別物。“安全”は医師が示せるが、“安心”は自分の心が生み出すしかない

検査をしないと不安でたまらない人に、そもそも「一回の陰性」では陽性を否定できないことを知ってほしい。

「PCR検査の感度(感染者に陽性の結果が出る割合)は、70%程度。30%の人は陽性であっても陰性の結果が出るということです。またこれからどんなに検査精度をあげたとしても、10%くらいは偽陰性がでるでしょう。検査とはそういうものです」(中田医師)

日本人の真面目さが「感染の犯人探し」という風潮を招く

厚労省の指針により、現在は24時間以上の間隔を置いて2回連続で陰性が出なければ、退院は認められない。中田医師が働く現場でもそれは同じだ。限りある医療資源を注ぎ込むだけの、つまり医療関係者が多大なストレスを感じながら時間をかけて無症状の人にまで検査するメリットはほぼない。また「陰性患者が実は陽性であった」と、あたかも“見逃し”のような報道をするのはナンセンスだろう。

「たとえ陽性であっても、軽症者は自宅待機でいいでしょう」と中田医師は続ける。そうでなければ重症者を助けることができないという。軽症者をホテルのような施設に移す案もあるが、そこまでの移動における周囲への感染が心配だ。微熱や軽い咳程度であれば検査を受けに行くのではなく、自宅で待機。必要あればかかりつけ医に電話で相談という手順を踏みたい。

日本人は真面目で衛生意識が高く、予防に優れている点で、新型コロナウイルスによる致死率が上昇しないと指摘する専門家もいる。しかしその真面目さが「院内感染」に対する厳しい目や、感染者ゼロを目指す風潮につながっているように私には思える。院内感染はコロナウイルス患者への対応が甘くて起きてしまったのではなく、自覚症状のないコロナウイルス患者が病院に“紛れ込んで”起きてしまったケースが大半。犯人探しをするような言動は慎みたい。

そして現在の緊急事態宣言が解除され、再び人々が街へ出ればまた少しずつウイルスは広がっていく。ウイルス撲滅は現状では不可能だ。それならば、いざという時に私たちの命を守ってくれる医療を十分に機能させるため、感染にまつわる不安に執着しないこと。医療崩壊を起こさせないためには、私たち国民が“細く長く”このウイルスに付き合っていく、というような“寛容さ”が求められている。

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