日本では毎年10万人以上が「肺炎」で死亡している

もう一つの医療崩壊は、「人工呼吸器やECMO(人工肺)が足りなくなり、助けられる可能性のある命が助からなくなること」だ。たしかに新型コロナウイルスに感染した重症者が増え続ければ、医療資源が足りなくなる可能性がある。だがまだそうした事態には至っていない。

写真=iStock.com/sergeyryzhov
医療用人工呼吸器

メディアは連日のように、ただただ右肩上がりに増え続ける「感染者数」と、症状に苦しむ患者の姿ばかりを大々的に報道している。そうした情報に接していれば、不安を抱くのはよくわかる。ただ、新型コロナウイルス感染に対する国民の「不安感」が増幅すると、医療現場を混乱させ、医療崩壊を現実にしてしまう恐れがある。

今は何よりも偏りのない事実を知ることが重要だ。新型コロナウイルスによる国内の死者は現在186人(4月21日時点)。一方、厚生労働省の人口動態統計によれば、日本ではここ数年、年間10万人以上が肺炎によって死亡している。その9割が高齢者である。一日あたりに換算すると、毎日数百人の高齢者が新型コロナウイルス以外の肺炎で命を落としていることになる。

ウイルスに感染し、肺炎を発症して死亡するという過程は「新型コロナウイルス以外でも日常的にあり得る」ことを、大前提として理解してほしい。もしかすると「新型」でなく、冬の風邪の代表格である「旧型」のコロナウイルス感染による肺炎の死亡者数のほうが多い結果になるかもしれないのだ。

「症状が悪化した時に医療を利用する」という意識が重要

厚生労働省のクラスター対策班の西浦博・北海道大教授は、国内では新型コロナウイルスで最大40万人が亡くなる恐れがあるという試算を公表している。ただ、これは新型コロナウイルスの感染拡大に対し、何も対策をとらない場合の試算だ。この数字だけをみて、恐れすぎてはいけない。

できる予防法を行い、感染が社会的に蔓延しない工夫をしながらも、感染することを必要以上に恐れすぎず(また感染者・回復者を人間的に差別せず)、「回復しない/症状が悪化した時に医療を利用する」という意識が重要だ。

「新型コロナウイルスに感染したかもしれない」と思うような不安があったり、発熱、呼吸器症状が出たら、まずは「かかりつけ医」か「新型コロナコールセンター(0570‐550571)」に相談すること。症状が軽いなら自宅で休養でもOKだ。しかし、かかりつけ医がわからなかったり、または一般診療所で診療を断られたりして、救急車を呼んでしまうような事態が起きている。

私が救急医に投げかけた3つの質問から“救急現場の声”を紹介しよう。現場の状況を知り、冷静な視点で様々な事柄を判断してほしい。