診察室で上手く話せない場合
もちろん、問診時に緊張してうまく話せない方だっているでしょう。ただ、医師は問診に慣れていますから、順序立ててお尋ねします。大事なのは、この医師からの質問をきちんと理解して、答えようとしていただくことです。
ご自身の治療中の病気や服用中の薬、過去の病気である「既往歴」、親族の治療中の病気や既往歴である「家族歴」も重要な情報ですので、忘れずにお知らせください。薬に関しては正確な名前がわからないといけませんから、お薬手帳を持参しましょう。
一方、逆に話が長すぎるのもよくありません。病気に関係していることならまだいいのですが、まったく関係ない世間話を長々とされることがあります。もちろん、患者さんの話に耳を傾けることは医師としての大切な役割の一つですし、雑談の中から重要な情報を得ることもありますから、お話をすること自体が患者さんのケアになるのはよくわかっています。それでも外来では他の患者さんが待っているので、ある程度の時間しか取れません。他の方をずっとお待たせするわけにはいかないのです。
家族が入院したときに大切なこと
さて、ご家族が入院した場合にも大切なことがあります。それは治療全般、いざというときの胃瘻造設や延命処置についてどうしたいか、ご本人や主要な親族と話し合っておくことです。またご本人の意思決定がすでに難しい場合、ご家族の代表一人を決めましょう。複数のご家族の意見が異なる場合、治療方針が定まらず、患者さんのためにならないからです。
以前、脳梗塞後の嚥下障害から誤嚥性肺炎を起こして入院した高齢女性を担当したことがあります。肺炎は治癒したものの、リハビリを行っても嚥下機能は回復せず、十分な経口摂取ができなくなりました。本人は高度認知症で意思表示はできません。胃瘻を造って経管栄養を行えば当面の必要カロリーは補充できますが、自然なかたちでお看取りするという選択肢もあります。胃瘻を造るか造らないかは価値観の問題で、医師が決めることはできません。本人が意思表示できない以上、ご家族に決定していだたかなければならないのです。
患者さんには息子さんが二人いて、一人は胃瘻造設に賛成、もう一人は反対でした。「胃瘻を造って少しでも長生きしてほしい」、「体に負担になることはせず安らかに見送りたい」、どちらのご意見もよくわかります。説明の時間を十分に取って意思決定の支援をしましたが、かなり揉めて治療が遅れ、スタッフも疲弊しました。