フィリピン人のレジ係「仕事を楽しんでいます」

技術を支えるのは、地球の反対側に住むフィリピンのメンバーたちだ。

顧客がモニターに近づくと呼び出しがかかり、ビデオ会議ソフトのZoomを通じて店舗のスクリーンに登場する。ニューヨークとは実に12時間の時差があるが、現地にいるスタッフとほぼ同等の接客をこなす。レジやテーブルでバーチャルアシスタントを呼び出すと、ヘッドセットを付けた担当者が、店舗のイメージに合わせて用意した背景ボードの前に座り、画面の中に現れる。

ニューヨーク・ポスト紙の記者がクイーンズ区のサンサン・チキンを訪れると、33歳女性のパイ氏が迎えた。マニラから車で2時間半、アメリカ文化の影響が色濃いスービック市に彼女は住んでいる。自宅のリビングルームからのリモート通話だ。

「仕事を楽しんでいます」と語る彼女は、もう半年ほどこの仕事をしているという。レストランに直接雇われているわけではなく、リモートレジのサービスを提供する米ハッピー・キャッシャー社との契約だ。

接続先の画面を切り替えながら、同時に3つのレストランを担当している。彼女は多くの顧客が、「バーチャルのレジ係に驚きます」と語る。一部の人々は、画面の中の彼女が人工知能だと勘違いすることさえあるという。

給与について彼女は明かさなかったが、顧客からときおり、多額のチップを受け取ることがあると述べた。マンハッタンの対岸に位置するヤソ・キッチンのジャージーシティ店を担当した際は、40ドルのチップをもらったことがあるという。チップはマネージャーやキッチンスタッフと分け合っている。

インフレに苦しむ飲食店の救世主

バーチャルアシスタントは、レストラン業界の救世主となる可能性がある。とくに小規模なビジネスを展開しているオーナーたちは、店舗家賃の上昇や食材の急激なインフレに対応しようと必死だ。人件費を節減すれば、メニュー価格をむやみに上げずに、顧客に還元できる。

サンサン・チキンのマンハッタン・イーストビレッジ店でマネージャーを務めるロージー・タン氏は、このサービスを称賛している。彼女はニューヨーク・タイムズ紙に対し、「小規模ビジネスが生き残るための手段となり得ます」と述べる。とくに小さな店舗において、スタッフの数を削減し、コストとレジ周りのスペースを節約できる恩恵は大きい。

運営の効率化は、店の設備の充実につながり、顧客にとっても良い方向に働く。浮いた費用とスペースのおかげで、店舗前に小さなコーヒースタンドを新設できるかもしれない、と彼女は語る。