「労働搾取」との批判もあるが…
バーチャルアシスタントをめぐり、労働力の搾取だとの批判が一部にある。サンサン・チキンのマネージャーは、UCトゥデイに対し、バーチャルアシスタントの導入は主にコスト削減のためであると認めている。
ニューヨーク・ポスト紙は、東南アジアの国々では平均時給が3.75ドルほどだとしている。これに対し、ニューヨーク市がチップ労働者を対象に定めた最低賃金は、チップの最低分配分を含め時給16ドルとなっている。4倍以上の開きだ。
一方、ハッピー・キャッシャーの場合、現地の平均的な給与水準よりも手厚い待遇を用意している。サウスチャイナ・モーニングポスト紙によると、フィリピンで雇用された人々が不当に搾取されているとの批判は、必ずしも当たらないようだ。ハッピー・キャッシャーの求人広告に記載されている給与は月額1万7920ペソで、これはフィリピンの一般なレジ係のなかでも高額な部類となっている。
加えて、チップや業績ボーナスでさらに稼げる可能性がある。アメリカの飲食店では会計の際、15~20%程度のチップを支払うことが一般的だ。月給の中央値がわずか325ドルというフィリピンにおいて、前掲のような1回最大40ドルのチップは、多額の収入源となり得る。サンサン・チキンやヤソ・キッチンなどの店舗でも、会計の際、最大18%のチップを支払うか顧客が選択する。
こうした背景から、ジャンCEOはフォーチュン誌に対し、「フィリピンの平均なレジ係の150%を支払っています」と述べている。
「リモートレジ」は日本でも広がる可能性
画面越しに接客を受けるバーチャルアシスタントは、現時点ではアメリカでも一部店舗への導入に留まる。しかし、今後の動向次第では日本でも導入される可能性があるだろう。
賃金面では搾取との批判もあるが、実態としては前述のように、むしろ現地の水準としては好待遇の部類に入る。流暢な英語をしゃべるフィリピンの人々であれば、渡米せずとも、住み慣れた自分の国で暮らしながら高給を目指すチャンスとなっている。
また、海外の安価な労働力を活用するビジネスは、これまでにもアメリカや日本など各国が実施してきた。製造拠点をアジアなど海外に設ける製造業界や、開発を国外で行うIT業界など、すでに各産業で取り入れられている。先進国側は現地の優秀な人材を安く登用でき、現地にとっても能力さえあれば国内平均より好待遇を目指せるメリットがある。
バーチャルアシスタントに関して現地で一部に拒絶反応が聞かれる背景には、むしろこうした観点よりも、画面越しにスタッフと会話することへの直観的な嫌悪感があるのかもしれない。一部に否定的な声も聞かれる一方、コールセンターへの通話が海外の日本語話者に転送されるケースがあるなど、国境を越えたサポートはすでに広がりつつある。
世界各地で物価が高騰する昨今、セルフ注文のタッチパネルの浸透など、飲食業界の店内は急速に変化している。バーチャルアシスタントはいつしか普及し、あとは"慣れ"の問題となるのかもしれない。