事業者ごとのコミュニケーションがうまくいっていない

建設工程は大きく4つのプロセスに分かれる。どんな建物を建てるか考える「企画」、企画をデザインなどに起こす「設計」、企画・設計を基に実際の建設を請け負う「施工」、建物が完成したあとの「維持管理」。建設工期とは、最初の「企画」「設計」「施工」の3つを指している。

報道では「施工」の部分が工期遅れの原因として取り上げられることが多いのだが、実は「企画・設計」段階での決定までが長いため、施工に皺寄せがいっていることはあまり知られていない。

「施工」においては、現在は優秀な技能工によって早い工期を維持できているが、高齢化や就労者数減少、時間外労働の規制強化が進む中で、従来のやり方を変えて企画から着工までの効率化も含めた見直しが必要である。こうした「建設産業の構造による抜本的な課題」が社会的に認知されていないのは非常に問題だ。

「企画・設計」段階の決定が長くなる要因は、建設サプライチェーンが分断しているという産業構造にある。企画から建物竣工しゅんこう(完成)までの建設サプライチェーンには、発注者(デベロッパーなど)、受注者(設計事務所やゼネコン)、またその配下には、サブコン、建材・設備メーカー、工場、専門工事会社など多くの事業者が関わっており、事業者ごとに業務が細分化されている。

業界が重層下請構造になっていることで、施工体制が複雑化し、現場の施工に対して元請けや上位下請けによる管理が行き届きにくくなり、現場の円滑な連絡調整や情報共有に支障が生じる。事業者間での手戻り(やり直し)やコミュニケーションロスが多く発生するのだ。

各事業者が一つの建物の設計図をそれぞれ作る非効率さ

例えば、一つの建物を建てるにも各事業者がそれぞれ設計図を作っていることはご存じだろうか。設計事務所が「基本設計」「実施設計」を行うが、この設計図では建築物は完成しない。それを基に、総合建設会社(ゼネコン)が「生産設計」を、メーカーは「製造設計」を、施工会社は「施工設計」をというように、設計図は何種類も別々に作られているのだ。

しかも、図面変更や確定にはプロセスの上流にさかのぼって、設計者や受注者(多くの場合がゼネコン)の承認が必要になる。よって、設計に変更が出た場合、アナログ管理だと各種設計図の整合性を保つことが難しくなる。

図面を確定した後に現場で変更が出た場合でも、設計者に伺いを立てて承認を受ける必要がある。そのため、手戻りが多く発生して承認に時間がかかり、建設工程の施工プロセスの下流に位置する現場に「工期遅れ」という皺寄せが発生する。

(一財)建設業振興基金「建設現場で働くための基礎知識」より