人間の脳は加工食品の中毒性に対処できない

加工食品に関する研究が進んだのは、いまから50年も前のこと。実験心理学者のハワード・モスコウィッツ博士が、砂糖の魅力を最大に引き出す方法を調べ始めたのがきっかけでした。

まずは、砂糖の量をいろいろと組み合わせて味覚テストを実施。そのデータをコンピュータモデリングにかけたところ、「もっとも中毒になりやすい糖分の量」を割り出すのに成功したのです。

さらに、もうひとつ加工食品の中毒性に欠かせないのが「脂肪」です。クリームたっぷりのケーキや脂がのった霜降り肉など、私たちの舌が脂肪の魅力に弱いことは、科学者に言われなくても想像がつくでしょう。

脂肪が恐ろしいのは、その中毒性に際限がないところです。

モスコウィッツ博士によれば、砂糖はある一定のレベルを超えると中毒性が減っていくのに対し、脂肪は使うほど食品としての魅力が上がっていくのだとか。お菓子の製造で有名なクラフトフーズ社は、ジャーナリストのマイケル・モスのインタビューに、こう答えています(※8)

「われわれの大脳辺縁系は、糖分、脂肪分、塩分(自然界では貴重なエネルギー源だ)に目がない。なら、これらが入った製品を作ればいい」

今日の加工食品には、50年にわたる化学の成果がつまっています。私たちの脳を限界まで興奮させ、食欲が止まらなくなるようにデザインされているのです。

当然ながら、人類の体が完成した数十万年前には、ジャンクフードなどは存在しません。加工食品に仕込まれた中毒性に対して、私たちの脳がうまく対応できないのも当然でしょう。

マイケル・モスは、加工食品メーカーの重役に話を聞いた結果を、次のようにまとめています。

「私が話を聞いた重役の多くは、自らが手がけた商品を避ける食生活を心がけていた。(中略)元クラフトのジョン・ラフは甘い飲み物と脂肪分の多いスナック菓子をやめた。ネスレのルイス・カンタレルは、夕食は魚と決めている。元フリトレーのロバート・リンはポテトチップスを食べず、加工度の高いほかの食品もほとんど食べない」

どうやら、加工食品の関係者ほど、その危険性に気づいているようです。私たちも、自分の身は自分で守るしかありません。

写真=iStock.com/carotur
※写真はイメージです

※8 マイケル・モス『フードトラップ食品に仕掛けられた至福の罠

加工食品を減らすと体脂肪が減っていく

加工食品を減らすとセットポイントが修正され、私たちの体は、苦労しなくても自動的にスリムになっていきます。

もちろん、この説は科学的にも広く支持されており、関連データはおよそ3000以上も存在します。代表的な例を、簡単に紹介しておきましょう。

・肥満ぎみの男女に加工食品を徹底的にひかえる生活をしてもらったところ、自然と一日の摂取カロリーが2478kcalから1584kcalに減り、3週間で2.5kgもの体脂肪が減った(2008年 ※9)。

・実験の参加者に加工食品を減らすように指導しただけで、一日の摂取カロリーが平均で200~300kcal減り、最初の12週間でおよそ3万kcalもの体脂肪を燃やすことに成功した(2007年 ※10)。

・極度の肥満患者を対象にした実験では、全員に加工レベルの低いドリンクを飲み続けてもらったところ、特に空腹に苦しむことなく2500日で100kg以上の減量に成功した(1965年 ※11)。

いずれの実験も、参加者はなんの空腹も感じておらず、気がついたら体脂肪が減っていたのがポイント。糖尿病治療の第一人者であるマーチン・マイヤーズ博士も、2010年のレビュー論文で次のように断言しています。

「過去の50年間で、私たちの摂取カロリーは大きく増えた。それは、脳への刺激が大きい食品の増加が原因だ。最新の肥満研究では、脳を刺激する食品にあふれた現代の環境をもっとも重視している」(※12)

加工食品によって脳が暴走したせいで、カロリーを摂り過ぎてしまうから太る。これが、現代の肥満研究の結論なのです。

さて、いったん肥満の原因がわかってしまえば、あとは問題をとりのぞいていくだけ。狂ったセットポイントを正していきましょう!

※9 M Österdahl, et al “Effects of a short-term intervention with a paleolithic diet in healthy volunteers”(2008)
※10 Lindeberg S, et al “A Palaeolithic diet improves glucose tolerance more than a Mediterranean-like diet in individuals with ischaemic heart disease.”(2007)
※11 Hashim SA, et al “Studies in normal and obese subjects with a monitored food dispensing device.”(1965)
※12 Martin G Myers, Jr., “Obesity and Leptin Resistance: Distinguishing Cause from Effect”(2010)