コロナ禍で必要性が強調されたマイナンバー制度
2015年から、日本政府はようやくマイナンバー制度を開始している。ついに国民番号制度が全面的に実現しようとしている。これも「国家による監視だ!」とマスコミは騒ぎ、使える用途が現状では限られていることや発行申請の手続きが面倒なことなどもあって、遅々として普及は進まなかった。
しかし2020年からの新型コロナウイルスによるパンデミックで、マイナンバー制度が実は必要だったのだ、と感じる場面が出てきた。
国民ひとりひとり、全員に等しく給付金を配ったりワクチンを接種するには、全員がIDを持っているマイナンバー制度があれば非常にスムーズなはずだと理解されるようになったのである。
コロナ禍ではマイナンバーが普及していなかったため、日本政府が給付金を直接配ったりワクチンを接種することができなかった。かわりに住民全員の住民票の台帳を持っている自治体ごとに実施するしかなく、これがただでさえ感染症対策で忙しかった自治体の負担を非常に重くしてしまったのである。
マイナンバーのような国民IDがあれば、社会保障の不公平感も解消できる。
たとえばいまの高齢者は、少ない負担で豊かな年金を受給している。若い世代になればなるほど、低い支給額なのに大きな負担を強いられる構図である。これは昭和の時代、若者がたくさんいて高齢者が少なかった頃に「たくさんの若者のお金で少ない高齢者の老後を支えればいい」という発想で設計されているからだ。しかし、少子高齢化社会で高齢者と若者の数が逆転してしまっているいまは、どう考えてもおかしい。
社会を良くする実利に目を向けるべき
しかし高齢者への支給額を減らすことには、猛反発が出るだろう。高齢者の人口が多いので、政治もそっちに目が向いてしまっているのを「シルバー民主主義」というが、こういう現状では制度を変えるのは難しい。
そして新聞やテレビはさかんに「ただでさえ生活が苦しいのに、年金が減るなんて……死ぬしかない」といった高齢の人の切実な声を報じる。こういう声を無視することはできないだろう。
しかしマイナンバーが今後、金融資産と年金受給額を紐づけて政府が把握できるようになったら、どうなるだろう。「生活が苦しい、年金を減らさないで」と言っている人が、実は1000万円以上の銀行預金があるなどというケースも見えてくるかもしれない。政府が新しい方針として「金融資産と現収入の合計で、年金支給額を決めます」と打ち出せば、さすがのマスコミも反論しにくくなるのではないだろうか。
マイナンバーには、社会を良くしてくれるこういう実利がある。
そして、このような制度を「ビッグブラザーだ!」「国民を監視している!」と大騒ぎするのももうやめたほうがいい。監視は国民をただ縛り付けるためのものとは限らない。ちゃんと実利もあり、社会にとって良い面もあるのだ。