中国だけがAI強国という皮肉な結果に

しかし大量のデータを集めようとすると、どうしても個人のプライバシーにまで踏み込んでしまうことがある。わたしたちがフェイスブック・メッセンジャーやLINEで家族や友人とやりとりしている文面を集めてAIで分析すれば、わたしたちのコミュニケーションの特徴や傾向が収集でき、人とAIがより親密なやりとりをする助けになるだろう。しかし、このようなプライバシーの収集には気持ち悪いと感じ、反発する人も出てくるだろう。

佐々木俊尚『この国を蝕む「神話」解体』(徳間書店)
佐々木俊尚『この国を蝕む「神話」解体』(徳間書店)

難しいのは、ここである。監視に反対しすぎると、AIのテクノロジーが進化しなくなってしまうのだ。「そんなことまでしてAIを進化させる必要はない!」と顔を真っ赤にして怒る人もいそうだが、ことはそう単純ではない。なぜなら中国政府のように個人のプライバシーなど気にしていない国ではAI研究で自由にデータを集めまくることができ、そうすると中国のAIだけが素晴らしく進化していくということになりかねないからだ。

AIが信じられないぐらいに進化している中国と、その進化についていけない日米欧などの西側諸国――そういう構図になってもいいのだろうか? ただでさえ強権国家・中国の軍事的な拡張は懸念されている。そこにAIのテクノロジーのバックグラウンドが加われば、強大なアメリカでさえも勝てなくなる日が来るかもしれない。それは恐ろしい未来ではないだろうか。

厳しくしすぎず、後押しを

日本経済新聞は「AI規制に漂う『全体主義の亡霊』 自由な研究妨げも」(2021年6月17日)という記事で、山田誠二・国立情報学研究所教授のコメントを掲載している。

「AIを社会に導入することに危機感があるのはわかる。しかし、あまり厳しくしすぎると、技術が育たなくなる。企業活動を制約せずに、後押しするルールにすべきだ」

まったくその通りだとわたしも思う。

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