SNSで政治的な対立を煽っているのは「少数の嫌な奴ら」というアメリカの研究結果がある。ジャーナリストの佐々木俊尚さんは「日本の場合、政治的に過激な投稿の文面は、1970年代の内ゲバ闘争のような古い言葉が使われている。これは私の推測にすぎないが、『少数の嫌な奴ら』の多くは団塊の世代ではないか」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、佐々木俊尚『この国を蝕む「神話」解体』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

攻撃的な投稿が目立つようになったツイッター

SNSが社会を分断し、政治的な対立を深刻にしている――。そういう言いまわしをよく目にする。本当なのだろうか。

佐々木俊尚氏
佐々木俊尚氏(画像提供=徳間書店)

ツイッター(現X)は2009年頃から日本で広まり始めたが、当時はとても牧歌的だった。「ランチなう」といった言いまわしで、ささやかな楽しい日常をつぶやく場所だったことを懐かしく覚えている人も多いだろう。しかし2010年代に入ると、だんだんと政治的になり、過激で攻撃的な投稿があふれるようになった。いまの荒涼としたツイッターを見ていれば、「社会を分断している」というのは当たっているように見える。

しかし、実はそうではないことがいくつもの研究によって指摘されている。アメリカの社会心理学者、ジョナサン・ハイトは『アメリカ社会がこの10年で桁外れにバカになった理由』(『クーリエ・ジャポン』公式サイト、2022年6月12日)で、SNSは社会のすべての人たちを分断しているのではなく、少人数の過激なグループの分断を深めているだけなのだと指摘している。アレグザンダー・ボールとマイケル・バン・ピーターセンという2人の政治学者の調査研究を紹介し、次のように書いている。

ソーシャルメディア上で地位の獲得に汲々とし、そのためなら進んで他者を傷つけるのは、ある少数の人々のグループであるという。

ボールとピーターセンは八つの調査を通じて、ほとんどの人々はオンライン上だからといって、普段より攻撃的にも敵対的にもならないことを発見した。むしろオンライン環境は、もともと攻撃的な少数の人々が多くの犠牲者を攻撃することを許してしまっているのだ。

少数の嫌な奴らが、討論の場を支配してしまう場合もある。というのも、普通の人たちは、オンライン上の政治的な議論から簡単に撤退してしまうからだ。

討論の場を支配しているのは「少数の嫌な奴ら」

これは日本のツイッターにもまさに当てはまる現象だ。「少数の嫌な奴らが、討論の場を支配」は、まさに日常的にわたしたちが見ている光景である。

スマホの画面を見る人のイメージ
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ハイトは、モア・イン・コモンという団体による調査結果も引用している。アメリカには最も右翼的な「献身的保守派」が人口の6パーセント、最も左翼的な「進歩派アクティビスト」が人口の8パーセントいるのだという。この左翼的な「進歩派アクティビスト」がSNSでは最も活発なグループで、過去1年でこのグループの70パーセントの者が政治的な投稿を共有していたという。

ついで「献身的保守派」が56パーセント。そしてこの二つのグループは、白人と富裕層の割合が多いこと、倫理や政治について均一な価値観を持っていることで似ているのだという。