不平等を是正するための「グリーンカード」制度

たとえば、個人事業主がどこかの会社と仕事をして収入を得たとしよう。発注元の会社が申告するので、その個人事業主の収入も税務署に把握される。しかし、その個人事業主が複数の銀行口座や株式口座を持っていると、税務署は収入や資産の全容が把握できない。本腰を入れて税務調査をすれば調べることはできるが、人手と時間と予算がかかるので、すべての人を調査できるわけではない。

特に問題になったのは「マル優」で、ひとり900万円までの貯蓄は非課税になるという制度である。戦後の家庭の貯蓄率を押し上げる功績はあったとは言われているが、お金持ちが家族や親戚の名前を使って口座をつくり、資産を分散させて税金を逃れるという悪い手口が横行していた。

マイナス金利の現在から見ると夢のようだが、当時は銀行にお金を預けると年に4パーセントぐらいの利回りがあったから、900万円でも年間36万円もの利息がついたのである。お金持ちは銀行口座に分散して預けているだけでも、利子でお金をどんどん増やすことができた。

ちなみに、このマル優はさすがにまずいというので1987年には「65歳以上」という制限がつき、2003年からは障がい者などに限定するようになっている。

こうしたお金持ちの「隠れ資産」は不平等である。これを許さないためには、だれがどこに口座を持っているのかを国が把握できるようにしたほうがいい。そこで1980年にはついに、グリーンカードという制度をつくった。名前は似ているが、アメリカの永住権のことではない。日本の所得税法を改正して、国民全員に番号を付与するというものだった。

国会を通過した法案が潰された

この法改正は国会も通過し、あとは施行されるのを待つはずだったのだが……なんと施行は延期となり、ついには改正法そのものが廃止になってしまっている。いったん通った法律が潰されるという異常な事態である。

その背景には、銀行や中小企業をバックにした政治家たちの暗躍があったと言われている。資産を分散させて隠し持っている中小企業の社長たちが怒り、彼らが資産を預けている銀行をも巻き込んで政治家に圧力をかけ、法律を潰しに走ったのだとされている。

ここで面白いのは、グリーンカードに主に反対したのは読売新聞や日本経済新聞。つまり、どちらかと言えば保守系の新聞であり、左派系(当時は左派やリベラルではなく「革新」という呼び名だったが)の朝日新聞や毎日新聞は、グリーンカードには賛成していた。なぜならグリーンカードが普及すれば税負担が公平になり、庶民にとっては良いことだという論調だったのである。