書体デザイナーとして歩んできた32年間
ご紹介が遅くなりました。私は「書体デザイナー」という、あまり聞き馴染みのない仕事をしています。
大学を卒業してから32年近く、デザイナーとしてたくさんの書体を開発してきました。今はモリサワという会社で今まで書体をあまり意識していなかった教育現場や自治体などを中心に、書体の重要性や役割、その使い方のポイントなどを書体デザイナーとしての経験を活かして普及、推進する仕事をしています。
書体とは、同じコンセプトでデザインされた文字の集まりのことです。スマートフォンやパソコンで文字を打つことが当たり前となった現代では、「フォント」と言うほうが、聞き慣れているかもしれません。「フォント」とはパソコンで使えるよう、デジタル化された書体のことです。
世の中には、無数の文字が溢れ返っています。そして、その文字の一つひとつがデザインされていて、必ず何かの書体のカテゴリーに当てはまります。
ほかの書体とは決定的に違う部分
例えば、パソコンで文章を打つときは「明朝体」を、Power Point(パワーポイント)でプレゼンテーションの資料を作るときは「ゴシック体」や「丸ゴシック体」を使っているという人は多いのではないでしょうか。
ほかにもあります。毛筆の楷書や行書など筆で書いた文字を再現した「筆書体」、奈良時代の寺社で使われていた印鑑の文字を再現した「古印体」、70~80年代のファッション誌を中心に一世を風靡した「タイポス」や商品のPOP広告に使われる「ポップ体」などを含む「デザイン書体」。変わったものでは、食品の表示ラベルのように、限られたスペースに多くの情報を詰め込むために文字の横幅が狭く設計された「コンデンス書体」などもあります。
2016年にリリースされた「UDデジタル教科書体」も、そんな数ある書体のうちの一つです。
ただ、ほかの書体とは、決定的に違う部分があります。
それはUDデジタル教科書体が、健常者の子どもたちだけでなく、ロービジョンやディスレクシアの子どもたちにとっても、「見やすく、読みやすく、間違えにくく、伝わりやすいこと」を目指して作られた教科書体であるということです。