知能レベルや勉強不足が原因ではない

耳慣れない言葉だと思われるかもしれませんが、それだけ“隠れディスレクシア”の子どもたちが、身近にいる可能性があるのです。

また、よく誤解されやすいのですが、ディスレクシアは、知能レベルや勉強不足(知識の欠如)が原因ではありません。会話をするだけなら全く問題ありませんし、話の内容も理解できます。ただ、会話を文字にすること、文字を読み上げることに大きな苦労を伴います。

そして普段の会話や理解力には問題がないだけに、ディスレクシアの子どもは「(やればできるのに)勉強のやる気がない子」「漢字が苦手な子」「読書が嫌いな子」といったレッテルを張られがちです。

先生や親からは「もっと頑張りなさい」と言われます。

でも、頑張って努力してもなかなか上達しない。読みたくても書きたくても、周りの友達のようにすらすらと読めるようにはならない。不用意に他人から傷つけられ、無力感を募らせた子どもは、次第にこう考えるようになります。

「もしかして、わたしって、ぼくって、バカなのかな?」

教科書がうまく読めないのは、ディスレクシアの子どもだけではありません。

景色がぼやけて見えたり、視野の一部が欠けて見えたり、眩しく感じたりする、「ロービジョン」(弱視)の子どもたちもいます。

子どもたちは人知れず悩んでいる

例えば、先ほどの教科書の文章をロービジョンの子の視点で見ると、このようになります。

ロービジョンの子どもの見え方
画像=筆者作成

これは、あくまで一つのイメージサンプルに過ぎません。ディスレクシアと同様に、ロービジョンも見え方はさまざまです。時間をかけたり、文字を拡大したりすれば読める子もいる一方で、視覚を補助する機具や機械に頼らないと文字を読めない子もいます。

2007年に日本眼科医会が調査した推計によると、現在、国内には約164万人の視覚障害者がいます。そのうちの8~9割にあたる145万人がロービジョンなのだそうです。

程度にもよりますが、普通学級では学習に支障があるため、専用のサポートが受けられる特別支援学級や視覚支援学校に通う子も多くいます。

日本の識字率は、ほぼ100%とされ、ほとんどの人が文章を理解して読み書きできると考えられています。でも実際には、文章の内容は理解できても、文字を読んだり書いたりすることに苦労している子どもたちがたくさんいる。それも私たちのとても身近に、人知れず悩んでいる子どもたちがいるのです。

その事実を知ったとき、私は驚き、ショックを受けました。

そしてこの衝撃こそが、私を「UDデジタル教科書体」の開発に駆り立てる、大きな原動力となったのです。