中小運輸会社の破綻は1年で1.5倍に増加

一方で、エネルギー価格が上昇し、トラックの燃料代が上昇する中で、運送料金を引き上げられない中小運輸会社の破綻が相次いでいる。東京商工リサーチの調査によると、道路貨物運送業の2022年の倒産件数は248件と、2021年の169件から1.5倍に増加した。これに来年4月以降、人手を確保するために人件費が増えてくれば、さらに倒産が起きる可能性は高い。倒産によって弱い企業が淘汰とうたされ、値上げと共に賃上げができる企業だけが生き残っていく、という見方もある。だが、それまでの間、サービスの質が大きく下がる一方で、料金が上がるという事態に直面するのではないか。

物流は国の重要なインフラだ。自由化によって宅配便が生まれたことで、新しいビジネスが育ってきた。宅配便がなければ電子商取引がここまで広がることはなかっただろう。製造業が部品在庫をほとんど持たなくても製造が続けられるジャスト・イン・タイムも物流インフラがなければ実現不可能だった。世界に冠たる物流ネットワークを作り上げた日本は世界からの驚嘆の的になった。一方で、そのネットワークがトラックドライバーの過重労働によって支えられてきたことも事実だ。今、日本はその負の側面をどう解決するかが問われているわけだ。

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危機の時こそ、新しい工夫と柔軟なルールが必要だ

DX(デジタル・トランスフォーメーション)がこれまでのデジタル化と違うのは、デジタル化する過程で仕事のやり方を根本から見直そうという点にある。実は、長年の慣行が残っている運輸業界には仕事のやり方を大きく見直す「余地」があるとも言える。

物流DXのベンチャー企業「HACOBU」(本社東京都港区、佐々木太郎社長)は、トラックが荷物を運び入れる「バース」をスマホから予約できるシステム「MOVO Berth」を開発、荷物搬入の待機時間を大きく削減することにつなげた。同社の調査では削減できた待機時間は平均63.3分に達する。すでに事業所の1万拠点に導入され、42万人のドライバーが登録している。DXで仕事の仕方が変わり、大幅な効率化につながることを証明した一例だろう。

単に今まで通りのやり方を続けるために、価格を引き上げていけば、新しいビジネスは生まれない。運送コストが上昇すれば、様々なビジネスに影響する。宅配便の値上げで地域の産地直送ビジネスも苦境に立たされている。そんな危機の時だからこそ、新しい工夫でビジネスが生まれてくることになるのかもしれない。ピンチをチャンスに変える工夫と、新しい取り組みを規制しない柔軟なルールが必要になるだろう。

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