保有NFTが自分のアイデンティティになる
ただし「NFT事業を始める=Web3的である」とは限りません。
たとえば楽天のNFT事業は、独自のプライベートチェーンで展開されています。プライベートチェーンとは、イーサリアムのような誰でも参加できるパブリックチェーンとは違い、自社だけで閉じているチェーンのこと。つまり「楽天以外のマーケットプレイスとの互換性はない」ということですから、中央集権的な構造は維持されたままです。
NFTには、ただ「トークン化された価値を保有している」というだけでなく、「保有NFTが自分のアイデンティティになる」という側面があります。
NFTアートの中でも、特にプロフィールピクチャー(PFP)に人気が集まっているのも、デジタル世界におけるアイデンティティのニーズが高まっているからでしょう。
「装飾品」「持ちもの」なども、アイデンティティを表現する装置になりうることから、NFTには、世界の名だたる大企業も続々と参入しています。
ただし、単に参入すればいいという話ではなく、NFTをどう扱うかで、明暗は大きく分かれるのです。
NFTホルダーの不信を買ったポルシェの例
ここでは大企業のNFTプロジェクトについて、「ポルシェの失敗」と「ナイキの成功」を例にとって考えてみたいと思います。
ポルシェの失敗とは、そのやり口がNFTホルダーの不信を買ってしまったという話です。
ポルシェのNFTは2023年1月に、0.911ETH(発売当時の相場で1490ドル)と非常に高額で売り出されました。名車の誉れ高い「ポルシェ911」にちなんだ値づけだといいます。ところが、それが売れ残ってしまい、最初の売値よりも安い値段で転売されるケースも出てきます。
そこでポルシェは、「売れ行きが悪いから」という理由で当初予定していたNFT供給量を減らし、さらに特典(ユーティリティ=NFTの使用価値)を追加。
それが二次流通(転売)の価格上昇につながります。こうして転売目当てのNFTホルダーを喜ばせ、沈静化に至りました。
しかし、その対応がNFTホルダーの批判を浴びることになります。ポルシェは、いったい何を間違えたのでしょう。