国内のランニングシューズ・アパレル市場規模は年間2000億円と言われる。厚底シューズを“開発”したナイキやアディダスのほかにも、虎視眈々とシェア獲得を狙うブランドもある。スポーツライターの酒井政人さんは「ブランドは商品を作るだけでなく、自前で選手を育成する時代に入った」という――。
ロンドンの靴屋さんのディスプレイ
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ナイキ厚底革命以降の熾烈極めるブランド・ウォーズ

世界のマラソンシーンのターニングポイントとなった年がある。それは、2017年。ナイキが“厚底シューズ”を本格投入したのだ。

それ以降、高速化が一気に進み、他のメーカーも薄底から厚底に完全シフト。カーボンプレートが搭載された厚底シューズが、アスリートや市民ランナーのスタンダードになった。

魔法のシューズが短期間で世界に普及したのは、シューズのクオリティーが素晴らしかったからだけではない。人々をあっと驚かせる“走り”を披露したランナーの存在も大きかった。その筆頭格は、ケニアのエリウド・キプチョゲだ。厚底で42.195kmの非公認レースで2時間切りに挑戦し、新モデルを着用で男子マラソンの世界記録を2度も打ち立てた。

日本人でも大迫傑が日本記録を2度も塗り替え、東京五輪では6位入賞を果たした。大迫はナイキ本社を拠点にするオレゴン・プロジェクトというチームで強くなった選手。ナイキは同社で育成した選手が同社モデルを着用してファンと顧客を拡大していく、というシステムを初めて確立したといえる。

近年も、ナイキ傘下の米国バウワーマントラッククラブに遠藤日向(住友電工)、吉居大和(中大)らナイキを着用する有力な日本人選手が練習に参加している。

他メーカーもこうした自前での選手育成に積極的だ。例えば、米国だけでもアディダス、ニューバランス、ブルックス、リーボック、オン、ホカ、アンダーアーマーなどがクラブチームで選手を育成している(※日本は実業団という独自のシステムがあるため、メーカー運営のクラブチームはほとんどない)

国内メーカーも負けていない。アシックスは2021年、ケニア・イテンに「ASICS CHOJO CAMP」を設立した。その目的は大きくふたつ。ひとつは選手を強化して、世界で戦えるランナーを輩出すること。もうひとつは選手にさまざまなモデルをテストしてもらい、新プロダクトの開発に生かすためだ。