ナイキ「.SWOOSH」の成功例

一方、ナイキのNFTプロジェクトは見事といえます。

comugi『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)
comugi『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)

ナイキのWeb3プラットフォーム「.SWOOSH」は、スニーカーやジャージ、アクセサリーなどデジタルアイテムをコレクションするコミュニティスペースです。誰でも参加でき、そこでコレクションされたアイテムには、自分のアバターが着用できる、今後リリースされるゲームで使用できる、リアルイベントの参加券になる、さらにはリアルなシューズと引き換えできる(今後そうなる可能性がある)、保有していることでアスリートとリアルで会えるチャンスがある、といった特典(ユーティリティ=使用価値)があります。

また、クリエイターは、「.SWOOSH」で自分がデザインしたアイテムを販売でき、ロイヤリティによる収益分配を得ることができます。そしてホルダーは、デザインなどのアイデア出しや、デザインコンテストでの投票を通じて、クリエイターを応援します。

ブランドをともに創る体験を提供している

特にすごいのは、ナイキのデザインコンテストの仕組みです。

クリエイターは、ナイキの本物のデザイナーと一緒にデザインを考えることができるうえに、賞金やロイヤリティを受け取れます。

また、コンテストにはスニーカーそのものではなく、ジェネレーティブAI(人間の注文を受けて成果物を自動生成するAI)に入れるプロンプト(呪文=ジェネレーティブAIに注文する際の「言葉」)を提出する、というものなので、創作のハードルが低くなっています。このように、みんなでアイテムを創る「共創コミュニティ」になっていること、クリエイターは「コミュニティ内で応援や、デザインのプロの協力を得ながらデザインし、販売する」という「学び」と「収益」の機会を得られること――総じていえば、ナイキのブランドをともに創る体験をホルダーに提供しているという点で、きわめてNFTの性質に合致するプロジェクトといえるのです。

「.SWOOSH」発で、2023年4月にリリースされたナイキ初のデジタルスニーカーは「OurForce1(OF1)」と名付けられました。代表的なブランド「Air Force 1」を踏襲しながら、まったく新しいブランドとして「Our(私たちの)」を使ったネーミングです。「NFT」を前面にうたわなかったところも含めて見事です。

「みなで創り上げるもの」というNFTの本質を、わかっていなかったポルシェと、わかっていたナイキ。そこが、両者の明暗を分ける最大のポイントといっていいでしょう。

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