会社の抵抗勢力をうまく説得する方法
「そんなことをいわれても、うちの会社ではうまくいきっこない」――あなたはそう考えているかもしれない。もしあなたが、会社で率先して実験を行う立場にあるのなら、さまざまな反対に遭うことが予想される。創造的な文化がまだ確立されていないと、人はさまざまな理由でテストをすることに抵抗を示す。うまく説得したいと思うのなら、そうした理由の1つ1つに、戦略的に対処する必要がある。
私たちの知る一流音響技術ブランドのソフトウェア技術者が、数台のスマートフォンを使ってハイファイのライブパフォーマンスを1テイクで記録する画期的な方法を思いついた。それぞれのスマートフォンが、グループのなかの1人のパフォーマーの音声と映像を記録するというものだ。演奏のあいだは、誰のパフォーマンスが最もすぐれているかをソフトウェアが勝手に判断して、ビデオ画像を次々と切り替えていく。
ボーカルが歌うときは、自動的にクローズアップに移行する。リードギターが独奏するときも同様だ。ふたたび全員が一緒に演奏を始めると、広角撮影に戻る。できあがったビデオは、プロのクルーによって撮影されたものに見えるが、ティーンエイジャーのガレージバンドでも、自分たちだけでそれをつくれるのだ。
このソフトウェア技術者には、自分が思いついたアイデアが、ティックトックをはじめ、オンライン・ビデオ・プラットフォーム用に動画を作成するミュージシャンにうってつけに思えた。それを提供することは、会社のプレミアム音響技術を新しい世代のコンテンツクリエーターに紹介する働きをするに違いない。
大企業によくある「失敗は許されない」問題
ソフトウェアの場合、有用性を調べる最も明快なテストは、ダウンロード可能なベータ版だ。無料のダウンロードは、実際の購入をはっきりと証明するものではないが、バリュー・プロポジション(価値提案)を向上させるうえで、貴重なデータとなる。だが、技術者がこの取り組みを提案すると、会社の上層部は、そのアプリに会社のブランドを使うことを断固として許さなかった。
「うちの製品の1つを、“無償で”提供するだと?」と、けんもほろろだった。「うちは専門ブランドだぞ。問題外だ」
技術者の考えでは、その実験には会社のブランドがどうしても必要だった。ブランドを使用しなかったら、現実世界のシナリオにおいて、プロの製作者たちがこのソフトを信頼してくれるかどうかをどうやって判断したらいいというのだ?
重要な専門家の支持を勝ちとってソフトウェアを彼らのニーズに合わせるためには、この実験にブランドを使うことが必要だった。だがその思いも、「我が社がつくるものは、すべて大きな成功を収めるものでなければならない」という、会社にはびこる暗黙の了解の前では、なすすべもなかった。
そうした想定は大企業に多く見られ、たいていいつも間違っている。実際には、実験に失敗しても、多くの人は気にもとめないだろう(それはいいことだ)。