このようにスペツナズは、秘匿性に関してはさまざまなレベルが存在する。だが、いずれにせよ、専門の訓練を積んだ精鋭部隊であることは確かだ。

元スペツナズの退役軍人はインサイダーに対し、一般の部隊とは異なり、スペツナズは勇気ではなく決断力に重きを置いていると語っている。その意味するところを問うと、「勇気とは、目的達成のために死をいとわない覚悟である。決断力とは、死なずに目的を達成する方法を見つける意志である」と答えたという。

2023年5月9日、モスクワの赤の広場で行われた軍事パレード(写真=Минобороны России/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

最前線に送られ格好の餌食になった

そのスペツナズが、ウクライナ戦争で壊滅状態に陥っている。何故か。

軍事サイトの米タスク&パーパスは、「この大規模な損失は、戦争の初期に用いられた戦術に起因している」と分析する。首都キーウの迅速な攻略を図ったロシアの司令官らは、一気に片を付けるべく、高度な専門スキルを備える貴重なスペツナズ部隊を惜しげもなく前線へと派遣した。

だが、砲弾が飛び交う戦場の只中に特殊部隊が派遣されたところで、本来の専門性を生かした諜報活動や工作を実施できるわけではない。この愚行が「専門部隊を格好の餌食へと変えた」と同サイトは論じる。

ワシントン・ポスト紙は、スペツナズは本来、例えばゼレンスキー大統領の捕縛のようなリスクの高い隠密行動に投じられるべき部隊だと指摘している。あるアナリストは同紙に対し、開戦当初からロシアの上級指揮官たちがロシアの戦闘機の能力を疑問視しており、侵攻を加速する目的でスペツナズを投入したと述べた。

外交政策研究所のリー上級フェローは、ロシアにとって陸軍の兵士の能力も心許なかったと指摘している。自動車化狙撃団の歩兵らが十分な成果を上げておらず、キーウ攻略や東部と南部での作戦が不調に終わったことを受け、エリート空挺くうてい部隊やスペツナズなどを前線に出すよう方針を転換したと氏は語る。

高度なボディーアーマーや暗視ゴーグル、熱検知機器など最新の装備と共に戦場に投入されたスペツナズだが、活躍の機会は限定的だったようだ。ワシントン・ポスト紙は、リー氏による分析をもとに、「その多くが殺されたり、捕虜になったりした模様だ。ビデオや写真によると、彼らの特殊車両の一部は破壊された」と述べている。

一部部隊はボランティアの寄せ集めになっている

スペツナズ自体の能力も、部隊によっては欧米の特殊部隊ほどは高くないようだ。ロシア独立紙のノーヴァヤ・ガゼータは、スペツナズの一角を成す民間軍事企業の部隊にボランティアで加わった若者の話を報じている。