長寿化がもたらす深刻な悩み

よその国民なら仕方ないと諦めて受け入れそうなこの程度の制度改革が、フランスでこれほどの大騒ぎになるのは、以下のような理由による。

①フランス人は仕事に喜びを見いだす度合いが少なく、早く引退生活を好きなように過ごすのを楽しみにしている。

②週休二日や有給休暇など休日の増加、労働時間の短縮は、1936年に人民戦線内閣の政策が世界に広まったものであり、年金制度もフランスは先駆的で、国民の関心が強い。

③任期が長く権限が強い大統領や優秀な官僚機構などフランスの公権力は強力である一方、庶民にはデモやゼネストなどの直接行動でそれに対抗する権利があるとみなされている。

④マクロン大統領は高級官僚出身であるだけでなく、ロスチャイルド銀行で財を成したので20世紀末以来の格差拡大に肯定的すぎると考えられている。

⑤加速度的に伸びる平均寿命とそれに伴う矛盾という人類にとって頭痛の種になる問題に、フランス人は世界の先端を切って議論を始めようとしている。おりしも、マクロン大統領が安楽死問題を国家的に取り上げる方向を打ち出した。

以下、まず、今回の大騒動の経緯について説明し、そのうえで、上記のような点について、少し掘り下げて論じたいと思う。

フランスは労働者福祉の先進国

フランスでは、1936年に社会党や共産党などの人民戦線内閣が成立し、有給休暇の創設や労働時間の短縮を断行した。さらに、レジスタンスの余波で左派色が強かった戦後の第四共和政では、企業の国有化拡大も行われ、年金制度も中央集権で公的部門の割合が高い国であるから、非常に手厚く構築された。

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さらに、1981年に大統領になったミッテラン大統領の下で、65歳だった年金支給を60歳からに引き下げた。若年層の失業を減らすために早期退職を促すのが得策という意味もあったので一応成功した。

だが、平均寿命が延び続ける状況を受け、保守派のサルコジ政権時代の2010年には62歳に引き上げられた。それをさらに、64歳に引き上げようというのが今回の改革の基本である。