マクロンの年金改革は前向きなのだが…

マクロンの改革案の、主たる内容は以下の通りだ。

①一般的な年金支給開始年齢を62歳から64歳へ段階的に引き上げる。また、満額受給の条件は、現行の41年間でなく43年間保険料を納付することとする。

②年金制度には民間の一般制度のほかに、公務員、農業、電気・ガス企業、自由業者、交通関係などの特別制度があるが、船員、バレリーナなど高齢まで働けない特別の人たちを除き廃止され、一般制度に吸収される。

③最低年金を最低賃金の85%まで引き上げる。

④20歳以前から働いた人や、障害者、重い物を運んだり困難な姿勢や振動を伴うなかで働くなど苦痛を伴う労働者には特例を認め、育児休業期間も納付期間に含める。

⑤これまでフランスでは少なかったシニア雇用を促進する措置を取る。

フランスの政治家や官僚は、精緻な制度を作るのは得意で、消費税などでも軽減税率とか考え出して、細かく税率を変えている。ところが、細かく分けるほど不満は出やすいし、また、ごねると自分たちも配慮されるという気にさせてしまう。

だから、マクロンが制度を単純化しようというのは、方向としては正しいが、現行制度より損をする人は当然、不満を抱く。しかも、国が決める度合いが大きいので、不満は大統領や政府に向けられる。

高級官僚・銀行幹部だったマクロンへの反感

さらに、マクロン大統領のキャラクターや経歴、政治的立ち位置の難しさも混乱が大きくなっている理由である。フランスでは1980年代から共産党が弱体化し、穏健保守(旧ドゴール派。現在は共和党)と穏健左派(社会党)が二大政党化する一方で、極右(かつてのFN、現在のRN。党首はマリーヌ・ルペン)が健闘し、中道派は不振という図式だった。

2022年6月、会談に臨むエマニュエル・マクロン大統領(写真=PRESIDENT OF UKRAINE VOLODYMYR ZELENSKYY Official website/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

サルコジ(共和党)とオランド(社会党)の両大統領がもうひとつ冴えなかったあとに登場したのが、社会党から飛び出したENA(国立行政学院。私の留学先)出身の高級官僚でロスチャイルド銀行幹部として財を成したマクロン現大統領だ。2017年の大統領選挙で、中道派、環境派、社会党や共和党の一部を糾合して第三勢力として勝利し、2022年にも再選した(三選は認められていない)。

フランスではもともと新自由主義は不人気だが、グローバリゼーションのなかで一国だけの規制は難しいし、大企業や富裕層への課税強化は資本逃避をもたらす。そこで、マクロンは、フランス政府単独ではなく、国際的な枠組みでGAFA規制などの強化に取り組む一方、歳出をリベラル色に近いものにすることを基本戦略としている。